急に冬らしくなったこの夜、向かったのは福岡市の中心部・天神。警固公園の向かい側にある「レソラ天神」1階には、ホリデイシーズンを迎え華やかさを増す「ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)」のディスプレイが広がっている。建物に入るとクリスマスツリーやトナカイなども飾ってある。その4階にあるのが「リストランテKubotsu(クボツ)」、前身は「リストランテASO 天神」でひらまつグループレストランだ。リブランドしてもう6年になる。
300年の歴史を持つ伝統工芸「大川組子(木下工芸)」が美しいエントランス。千葉篤志支配がいつものように出迎えてくれる。店内は博多織や大川組子、唐津焼など九州の伝統工芸品が多用されており、温もりある落ち着いた空間が広がる。

この夜は「リストランテKubotsu」毎年11月恒例の白トリュフディナーイベントと言う事で、ダイニングも満席で賑やかな風情だ。私達はいつもの様に、警固公園見下ろせる一面ミラーの個室に案内して頂く。
窪津朋生シェフは2003年にひらまつ入社後、2009年には「リストランテ ASO 代官山」副料理長、2011年「リストランテ ASO 天神」を吉越謙二郎シェフの片腕として立ち上げ、2018年からは自らの名を冠した「リストランテ Kubotsu」料理長を務めている。現在は「リストランテ Kubotsu」総料理長、そして「ひらまつグループイタリア部門」統括副料理長でもある。

コースは「イタリア産白トリュフ旬の食材(Menu Tartufo Bianco)」と銘打たれ、窪津シェフが自ら訪ねて納得して仕入れた各食材がメニューにも記されていた。千葉支配人や東京から戻ったばかりの春田英幸ソムリエらと歓談する中、まず出てくるのは「種子島産安納芋と林田さんの銀杏」。
紅葉で皿を飾った秋らしい景色。わざわざ小麦粉で焼き芋の皮風を作って、中に安納芋を詰めて焼き上げた。まさにほくほく食感も香りも味わいも正に「やきいも」!である。贅沢に白トリュフを纏わせ、手前には素揚げした銀杏も添えて季節感を出した。

合わせてグラスシャンパーニュを頂こう。運ばれて来たのは「イブ・ジャック ラ・キュヴェ・セレクション(Yves JACQUES cuvee Selection Blanc de Blancs)」。「イブ・ジャック」はコート・デ・ブランのレコルタン・マニピュラン。日本ではひらまつグループのみが取り扱っていると言う。確かに見かけた事がなく初めて頂くかな。
デゴルジュマンは2022年11月。シャルドネだけを使ったいわゆるブラン・ド・ブランであるが、「2018」「2019」「2020」3年の葡萄を使用し複雑さを醸し出している。ドサージュは10gということで口当たりも柔らかく丸い。とても軽やかで爽やかだが、一定の飲みごたえもある。アミューズから前菜前半で、料理を邪魔せずに寄り添い引き立ててくれそうなシャンパーニュだ。

ちなみにシャンパーニュ・グラスはリーデルの「ファット・ア・マーノ」シリーズから、ステムがカラフルなグリーンとダークブルーだ。今までのリーデルグラスとは異なるプロセスで作られた「ファット・ア・マーノ」シリーズは、ヴェネチアンガラスの技法で「手作り(fatto a mano)」されたステムに、機械による吹きガラスの「ワインの個性を引き出す完成度の高いボウル」を結合した。カラーも多彩に揃っているのでクリスマスパーティーなど重宝しそうだ。
2皿目は「福田さんの大根をサラダ仕立てで シーザー風」。白皿に並べられたカラフルな紅葉は大根だ。思わず綺麗だねと声が出る。中央部分には、マスカルポーネチーズを使ったバーニャカウダソースに白トリュフを乗せている。美しくも瑞々しい大根に、そのソースを絡めながら頂く。ねっとりした食感と鼻の奥で広がってくる白トリュフの風味が抜群の相性を見せる。

続いて「森光さんの蕪のスープ仕立て 阿久根産伊勢海老と共に」が運ばれる。福岡県久留米の農家「根菜人(KONSAIBITO)」森光健太氏が丹精込めて育てた蕪のポタージュ仕立てだ。森氏は3代目の大根農家、彼の代で蕪の栽培も始めた。筑後川・筑後平野の恵みをうけ大切に育てられたこの蕪は、窪津シェフの料理では定番だ。毎年「白トリュフディナー」で必ず登場している。
柔らかくもごろっとした蕪、そしてミキュイの伊勢海老も潜み、冬らしい食べ応えがある。白トリュフの風味がよく合ってワインも進む。伊勢海老のオイル、そして隠し味に鰹出汁の風味が、各食材を自然につないで一つ上のふくよかな味わいに昇華させていた。

次は「田中製粉の浮羽産小麦で作ったタヤリン 山もり卵とヤキトリマンファームの天草大王地鶏の出汁で」。北海道に次いで小麦の生産量が多いのは、実は福岡県である。その中でも栽培の盛んな浮羽産小麦粉を使い、特別に田中製粉に製粉してもらったタヤリンなのだ。
ピエモンテの伝統的な細切りパスタ「タヤリン」。当然ながら白トリュフとの組み合わせは黄金律。目の前で窪津シェフが自らが大きな白トリュフを削り掛けてくれる。ピュアな「山もり卵」の半熟を客自ら切れ目を入れつつ、トロッと流れ出した卵をタヤリンに絡めながら頂くという趣向だ。これも地鶏の出汁の微かな旨みが全体を丸くまとめる。お替りしたい欲望に堪える(笑)

ここで赤ワインはボトルを開けよう。春田ソムリエが勧めてくれた「ミッシェル・ノエラ ヴォーヌ・ロマネ プルミエ・クリュ レ・スショ 1999(Michel Noellat Vosne Romanee 1er Cru Les Suchots)」をチョイスする。「ミッシェル・ノエラ」の古めのヴィンテージということで期待も高まる。伝説的なドメーヌ「シャルル・ノエラ」の弟の家系。シャルル・ノエラの畑の一部を相続している。小さな家族経営で流通量は少なく、日本ではなかなか見ない。
赤身肉の燻製、鰹出汁の風味、ダークチェリー、スミレ、薔薇のドライフラワー、スパイス、時間と共に芳香量がふえてくる。柔らかいアタックから熟した枯れた赤果実の風味が余韻に大きく広がり余韻は長い。白トリュフの妖艶な香りに寄り添ってくれる。最初は寿命が短いかな?と思ったが、最後まで崩れず集中力があり、バランス良く飲むことができた。

続いて登場したのは「大分産鰆のムニャイア 軽いブールブラン ザニンさんのカーボロネロと」。テーブルで美しいマリンブルーのプレートに、白いソースが注がれて完成する。淡白ながら奥深い味わいの寒鰆をムニエルにし、ブールブランでまとめた一品だ。上には白トリュフを散らし、ソースにもトリュフを滲ませた。
下に引いた糸島「ザニン農園」の黒キャベツ(カーボロネロ)の柔らかな苦味と甘みがアクセント。カーボロネロの残る余韻がとても良い塩梅だ。バランスよく過不足なく仕上げた魚料理であった。

そしてメインは「熊本・大塚牧場あか牛のタリアータ ペリゴールソース」だ。窪津シェフが「この赤牛を使うともう他のを使えません」というお気に入りの阿蘇・大塚牧場の「あか牛」。阿蘇地方で飼育されていた在来種を起源とし、昭和19年には和牛として登録されたと歴史も長い。4種類ある和牛のうちの「褐毛和種(あかげわしゅ)」になる。和牛の95%を占めるのは「黒毛和種」になるから、貴重品種。赤みが多く脂肪分が少ないのが特徴の身質だ。
そのあか牛を軽く炭火焼きで火を入れて、ポワロネギとペリゴールソースを贅沢に下に敷いた。トリュフの風味を感じながら、噛むごとに旨味の滲み出てくるあか牛を、熟成したブルゴーニュと共に堪能することができた。

デザートは「熊本産和栗のジェラートとホワイトチョコのエスプーマ ナッツのキャラメリゼ」。この時期ならでは、旬の熊本の和栗をふんだんに使用したジェラート。これの上にもたっぷりの白トリュフが削られている。甘く冷たいホワイトチョコのエスプーマ がフワフワで、ナッツと栗の風味と歯ごたえが秋らしい美味しさだ。デザートまで白トリュフ三昧のコースに満足する。最後は小菓子と紅茶・コーヒーで締めくくられた。
毎年恒例だが、我が家のペースに合わせてテンポ良く提供してくれる。1999年のブルゴーニュと共に白トリュフの芳香を今年も楽しむことができた。3日間の白トリュフディナーも盛況で、クリスマスに向けた予約の動きも早いとの事。ベテランの領域にさしかかり安定感の出てきた窪津シェフの料理を、ワインと楽しめた楽しい一夜であった。
RISTORANTE Kubotsu
Tenjin 4F, 2-5-55, Tenjin, Chuo-ku, Fukuoka
Japan

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