六本木・東京ミッドタウンにある「ザ・リッツ・カールトン東京(The Ritz-Carlton Tokyo)」。話題は、今年8月からフランス・ミシュラン3つ星小林圭(Restaurant KEI)氏を料理監修に迎えた「アジュール フォーティーファイブ(Azure 45)」だろう。
それと同45階にあるのは「日本料理 ひのきざか」、会席・寿司・天麩羅・鉄板焼の4つのエリアに分かれている。いくつかのセクションに分けるこのやり方は、大阪京都福岡も含めて「ザ・リッツ・カールトン」お得意企画だ。

ザ・リッツ・カールトン福岡 The Ritz-Carlton Fukuoka

そんな「ひのきざか」の鉄板焼料理長、2017年に就任して話題になったのが谷口祐卓氏だ。谷口氏は関西出身。「最高の料理は最高の空間から」を信条とし、京都や大阪のレストランや「ザ・リッツ・カールトン大阪」でも経験を積み、鉄板焼シェフとなった。
そして今年の6月、福岡市中心部に開業した「ザ・リッツ・カールトン福岡(The Ritz-Carlton Fukuoka)」、谷口氏は日本料理「幻珠(Genjyu)」統括料理長 兼 鉄板焼料理長になったのだ。

ザ・リッツ・カールトン福岡 The Ritz-Carlton Fukuoka日本料理 幻珠 Genjyu

18階にある日本料理「幻珠」、3つのエリア(会席・鮨・鉄板焼き)に分かれている。先日は夏の「幻珠 by 鮨 将司(Genjyu sushi by masashi)」、秋の「幻珠 会席(Genjyu KAISEKI)」を紹介した。そこで今回は谷口シェフの料理を頂くために「幻珠 鉄板焼(Genjyu TEPPAN)」に伺った。
「ザ・リッツ・カールトン福岡」のレストランはネット予約が中心だ。電話も1回線用意されているが、時間帯・タイミングによってはかなり繋がりにくい。「幻珠」会席・鮨も基本ネットで予約を入れている。この日「鉄板焼」もネットで予約入れようとしたが表示がない。

ザ・リッツ・カールトン福岡 幻珠 鉄板焼き 谷口祐卓料理長

どうしたものかと思い、先日「幻珠 会席」にうかがった際、橋本マネージャーに相談し「幻珠 鉄板焼」の予約を入れてもらった。谷口シェフに聞くと「ゲストが着席した瞬間から最高の時間と空間を過ごせるよう」なるべく被らないように時間帯をずらし、敢えて電話予約のみにしていると言う事だった。素晴らしい。
「幻珠」エリアの一番奥、玄武岩オブジェの向こうガラス越しに「鉄板焼き」のカウンターが見えてきた。谷口シェフが爽やかな笑顔で出迎えてくれる。こちらも⽇本建築と福岡伝統⼯芸を現代的に表現したシックモダンな空間だ。早く陽も落ちて冬らしい夜景が窓の外に広がっている。

ルイナール ブラン・ド・ブラン ブリュット Ruinart Blanc de Blancs Brut

カウンター8席、ゆったりとした落ち着いたカウンターが延びる。テーブルセッティングはシルバーの珍しい器。有田焼で近年人気の「李荘窯」など細部にわたって谷口シェフの目利きで集められ、特別にオーダーした物ばかりだそうだ。
ナプキンリングはシルバーの「ザ・リッツ・カールトン ライオン」が光る、実はこれ、ロープが付いたエプロンリングだった。まずはいつもの様に、ワインリストの中から、グラスシャンパン「ルイナール ブラン・ド・ブラン ブリュット(Ruinart Blanc de Blancs Brut)」を選ぶ。ゴールドの泡が美しく浮かび上がる。

ザ・リッツ・カールトン福岡 幻珠 鉄板焼き

ガーリックを美しい手さばきで香ばしく焼いていく様を眺める。数十分もかかると言うから大変だ。香ばしい匂いが食欲をそそる。では今宵はコース「真珠 -Shinju-」を頂いく事にしよう。
まずは「おもてなしの一品」は佐賀産レンコンのすりおろし。ウニとオクラを載せて出汁を流した。蕩けるような食感に風味の効いた出汁が調和する。スタートにふさわしい一品だ。

ザ・リッツ・カールトン福岡 幻珠 鉄板焼

続く三品はプレートに載せられ一度に供せられる。手前の「無花果 車海老 胡桃味噌」はイチジクの甘さ・酸味とゴマ味噌の風味が調和する。「春菊 菊花 茸 いくら」と奥には「真鯛昆布〆 自然薯素麺 塩ポン酢」。程よい〆加減の真鯛の下のそうめんとともに。
同じ「幻珠」であるが「会席」とは仕入れも全く別、献立も別に組み立ているという。確かに味付けも、食器の趣味も全く違う。

ザ・リッツ・カールトン福岡 幻珠 鉄板焼

そして登場したのは「ヤイトガツオ 緋扇貝 焼き造り」。山葵とともに帆立貝で旨味を出した「 貝醤油」も添えられる。ここで面白いのは皿をいきなりバーナーで炙る!これは有田焼「安楽窯」の特注物。有田唯一の耐熱素材に特化した窯元だ。炭を入れても使えると言う。
そこに刺身を乗せてガラス蓋をする。客の目の前で短時間の燻製に仕上げるという趣向だ。蓋を開けるとふんわり白煙が流れ出す演出、微かに燻香のついた緋扇貝の旨みが広がる。

ザ・リッツ・カールトン福岡 幻珠 鉄板焼

次は「甘鯛 松茸 酢橘 吸地薄葛」。立派な松茸と、玄界灘で獲れる新鮮な甘鯛に火を入れていく。手際よく返すうちに鉄板の上で鱗が立ってくる。すだちを振った松茸はその香りがたちのぼる。薄葛の吸地で頂く。
そして華やかな食材が並べられ、目の前で「壱岐牛ロース 焼き茄子 冷製オランダ煮」が仕上げられていく。壱岐牛は赤身の味が濃くさっぱりした脂が特徴的だ。糸島産の茄子やトマトなど彩美しい野菜のしっとりした食感と、ロース薄切りの繊細なタッチが非常にマッチしている。出汁がとても美味しかった。

ザ・リッツ・カールトン福岡 幻珠 鉄板焼

ここで赤ワインもグラスで頼んでいこう。「ローラン・ファヨール クローズ・エルミタージュ クロ・レ・コルニエ 2019(Laurent Fayolle Crozes Hermitage Clos les Cornirets)」だ。コート・デュ・ローヌ地方のシラー100%。1870年創業のドメーヌ・ローランファヨール。現在は6代目ローランが栽培とワイン造りを行う。
クロ・レ・コルニエは石垣に囲まれた畑。樹齢60年を超えるヴィエイユ・ヴィーニュになる。シラーらしいふくよかな果実味とまだ元気なタンニンが広がる。そこに酸と綺麗なミネラル感があり、上品な味わいを醸し出す。料理を邪魔せず、寄り添ってくれるグラスワイン。

ローラン・ファヨール クローズ・エルミタージュ クロ・レ・コルニエ 2019 Laurent Fayolle Crozes Hermitage Clos les Cornirets

そうそうこちらのワインリストは、伺うたびに微調整が繰り返されている。今回はワイン3種(シャンパン・白・赤)、ワイン4種(シャンパン・白2・赤)のワインペアリング(Wine Paring)も追加されていた。
さていよいよ「九州産 特選ブランド和牛 フィレステーキ」の登場だ。先程は薄切りロースをさっぱりと頂いたが今度はフィレで。「壱岐牛」は鎌倉時代から飼育されていた。つまり元寇の頃には存在した牛ということになるから驚きだ。

ザ・リッツ・カールトン福岡 幻珠 鉄板焼

海に囲まれた長崎県の離島「壱岐の島」は、博多から高速船で1時間ほどかかる。その温暖で穏やかな気候、そして四方から吹き付ける潮風によって、ミネラル豊富な牧草を食した身は脂も上品とされている。年間1000頭程という出荷量の少なさも人気に拍車をかけている。
優しく火の入った焼き野菜の染み出す旨味。そして上品な壱岐牛フィレ肉は絶妙な焼き加減でとろけて肉汁が溢れる。岩塩・山葵・タレなど6種の薬味で楽しめるのだが、中でもオリーブオイルにつけた宮崎産「胡椒の実」が良かった。

ザ・リッツ・カールトン福岡 幻珠 鉄板焼

〆のご飯は「南部鉄器で炊き上げる白御飯 ガーリックライス」。鉄板上の南部鉄器で焚き上げてた白ご飯を、ガーリックライスにしてもらう。「壱岐牛ロース牛蒡ご飯」でも可能だ。
こだわりの卵と粗みじんの牛肉が加えられ手際よく作られていく。店に到着時に作られていたあのガーリックチップとガーリックオイルも投入、またもや食欲がそそられる。味噌汁香の物とともに頂く。鉄板焼きはやはりガーリックライスは外せない(笑)

ザ・リッツ・カールトン福岡 幻珠 鉄板焼

デザートは「ほうじ茶のブラマンジェ」、柿と熊本産和栗も添えられる。ほうじ茶の旨味香りが柔らかく滲み出てくる。最後は自家製の「さつまいも羊羹」も出され、満腹満足で舞台は幕を閉じた。
最初は貸し切り状態であったが時間と共に客が増えてきた。海外ゲストも多いようだ。時間をずらしているためテンポよく落ち着いて食事ができる。真新しく洗練され落ち着いた空間に、美しく浮かび上がるカウンター、最新モード感を演出する器類。

ザ・リッツ・カールトン福岡 幻珠 鉄板焼

厳選された九州の新鮮な食材に、谷口シェフによって的確に手を加えられた料理たち。目の前で仕上がっていく音と香り・・そんなエンターテイメントな鉄板焼きの楽しさを堪能できた夜だった。