銀座並木通りにあるフレンチ「レストラン エスキス(Restaurant ESqUISSE)」、前回に続いてホリデーシーズンに相応しいディナーを紹介していこう。ロイヤルクリスタル銀座ビル9階にあり、安定の「ミシュランガイド東京」2ツ星。各高級ホテルからの信頼も厚く海外ゲストが多い。
ではディナー後半、若林英司総支配人 兼 シェフ・ソムリエと語らいながら、リオネル・ベカ(Lionel Beccat)エグゼクティブ・シェフの料理を堪能していくことにしよう。

赤ワインは若林ソムリエと相談して決めた「シャトー・シュヴァル・ブラン 2001(Chateau Cheval Blanc)」を開ける。「シュヴァル・ブラン」が各ビンテージのイメージに合わせて、毎年、料理人に依頼して料理を作っていたと言う。「2001年」ヴィンテージは、「エスキス」と同グループの和食「銀座 奥田」が選ばれ、奥田透氏が当時フランスまで行って料理をしたそうだ。
若林ソムリエはテーブル横のキャビネットで、美しい手さばきで抜栓、丁寧にデキャンタージュしながら当時のエピソードを話してくれる。そんな「2001年」を味わえるのだから楽しみもひとしおだ。

ボルドー右岸、サン=テミリオン地区のトップドメーヌ(プルミエ・グラン・クリュ・クラッセA)。メルローではなくカベルネ・フランを主体とするエレガントなワイン。1998年にはLVMHグループに加わり積極的に資本投下された。近年シャトーでは巨大で近代的なセメントタンクが壮観に並ぶ。発酵を終えると真下に設置された熟成樽へと自然に移動する仕組みだ。その上品でエレガントな飲み口は我が家のお気に入りの一つである。
まだ若々しさを残しつつ、涼やかな枯葉のニュアンスになめし革。羽毛のような洗練された軽さを伴うアタック。ほどけたタンニンと果実感が調和するイメージ通りの味わいだ。いつもながらエレガントで深遠な味わい、優しく包まれるような飲み心地が「エスキス」の料理にぴったり合った。

そこへ若林ソムリエが運んで来たのは、見るもびっくり何とも巨大な舞茸だ。日本一の舞茸産地である新潟県。その中でもこの魚沼産舞茸は定評がある。登場するのはそれを使った料理「激しさ(舞茸/赤蝦夷松/松の身)」。巨大舞茸を乾燥させて寝かせ、中に自家製の黒豚のラルドを挟んで焼き上げるのだ。
まさに肉のようなジュージーな肉厚のキノコ。コンソメのスープに松の実のペーストを合わせた。ポルチーニのパウダーが振られて、デザイン的にも味わい的にもアクセントになっている。これはもう何とも美味!「料理に使えるのは一部なので、賄い料理は舞茸ご飯が最近の定番です」と笑顔の若林ソムリエ。「皆さんに満足度高いと言って頂いてます」と言うだけある見事な完成度であった。

続く料理は「調和(真名鰹/銀杏/アンディーブ)」。しっとりと火を入れた真名鰹だ。白ワインと醗酵バターを使った濃厚なソースが鎮座する。カリフラワーと柚子も美しいアクセントに添えられ、味わいの変化を楽しみつつ食せる。
アンディーブの中にはホタテとミツバのペースト、コンテチーズを包み込んだ。これまた濃厚で絶妙な味わい。柚子の香りが印象的で、まさに全てが調和し理路整然とした秀逸な魚料理だった。

そして「マルセイユ(雲丹/ルイユ/レモン)」。リオネルシェフが幼少を過ごしたフランス南部のマルセイユ。リオネル少年は自宅すぐ近くの海岸に行っては、海に潜ってウニを取り、レモンを絞って口に運んでいたという。その幼少期の鮮明な記憶を再構成した一皿だ。
マルセイユの海の記憶から、北海道のムラサキウニのヨード香を敢えて活かしている。ウニの甘さと柑橘の香りが口の中で広がる。ジャガイモのペースト、レモンコンフィ、刻んだ昆布も潜んでいる。これはまたリオネルシェフの感性でなければ表現できない味わいだろう。

そして登場したメイン料理が「獣性(鹿/ビーツ/カシス)」。鮮やかにローズ色にデザインされた美しいプレート。北海道の蝦夷鹿は滑らかで、何ともエレガントな火入れだ。肉断面のジューシーさは目でも美味しい。フォークを入れると肉の香りが立ってくる。
ソースは、福岡・糸島の醤油粕とロックフォールを合わせて寝かせたもの。2つの発酵のマリアージュで味わい深い。添えられたのは、プルーンとヘーゼルナッツのコンディモン。ビーツの食感やカシスの風味と共に、美しい味わいが「シュヴァル・ブラン」と調和し素晴らしい一品だった。

さてここでやって来たのは久しぶりの「錬金術(フロマージュ/醸し)」。こちらで何度も頂いているお気に入りのチーズプレートだ。コンテとマスカルポーネの層に昆布と刻んだ黒トリュフも混ぜている。
表面には日本酒を使ったソースを塗ってネットリとした食感を出している。添えられた塩に少し付けて、鮨のように頂ける趣向だ。それぞれを日本酒でつなぎ、アミノ酸の旨味を重ねて黒トリュフで蓋をする。ワインとともに「お代わり」したくなる、濃厚で絶妙な大人の味わいである。

デセールは1品目が「直観(カボチャ/柿/サフラン)」。滑らかに甘い柿がサフランでエキゾティックに仕上がっている。続く2品目の「愉しみ(洋梨/胡桃/ローリエ」。洋梨はバターでソテーし、タルタルにして胡桃のクッキーと合わせた。クッキーの香ばしいザクザク感と甘くとろけるバター、さっぱりしたアイスの食感バランスが計算されていてとても美味しかった。
そこへ若林ソムリエが出してくれた食後酒は「ムーラン・トゥーシュ コトー・デュ・レイヨン 1997(Mouline Touchais Coteaux du Layon)」だ。ロワールのアンジュ地区、1787年から続く名門「ムーラン・トゥーシェ」。シュナン・ブラン種主体のねっとりした優雅な甘さが、相性良く思わず頷く。綺麗な酸味と奥深い甘味が食後を彩ってくれた。

最後は小菓子とハーブティーを頂く・・もう満腹でとても満足。帰りは満席で忙しい中、若林ソムリエが見送ってくれる。お土産に、バター染み出る大きな「フィナンシェ」を頂き、賑やかな「レストラン エスキス」を後にした。
今宵も優雅で落ち着いたサービス、素晴らしい状態のワイン、そしてリオネルシェフの「日本とフランス、その2つの国が互いに引っ張り合う第3のテロワール」を引き出す世界観とともに、不思議な旅をしたような満足の一夜であった。
Restaurant ESqUISSE
Royal Crystal Ginza Bldg. 5-4-6
Ginza Chuo Tokyo JAPAN
〒104-0061
TEL: 03-5537-5580
TEL: +81-(0)50-5369-5052(English only)

コメントを投稿するにはログインしてください。