前回に続き、JR東京駅前「東京ミッドタウン八重洲」最高層40~45階に位置する「ブルガリ ホテル 東京(The Bulgari Hotel Tokyo)」にて。照明を落としたイタリアモダンのエントランスロビーからエレベーターで40階へ到着すると、メインロビーには「ブルガリ ドルチ(Bulgari Dolci)」「Sushi Hōseki – Kenji Gyoten」が見えてくる。その間を進んだ突き当りに「ブルガリ ラウンジ(The Bulgari Lounge)」が広がっている。
ブルガリのテーマカラー「サフランカラー」が印象的な明るいラウンジは、ローマの宮殿をイメージした格天井、巨匠ジオ・ポンティ(Gio Ponti)風のニレ材壁。黒花崗岩の暖炉にイタリアンインテリアが並んでとてもモードな雰囲気だ。

イル・リストランテ ニコ・ロミート Il Ristorante Niko Romito ブルガリホテル東京

そして奥、ラウンジに繋がっているのがメインダイニング「イル・リストランテ ニコ・ロミート(Il Ristorante Niko Romito)」。ミシュラン3ツ星であり、イタリア・アブルッツォ「レアーレ(Reale)」のオーナーシェフ、ニコ・ロミート(Niko Romito)が監修する。アブルッツォ州の山あいから独学で星を獲得したシェフだ。
インテリアデザインはもちろん「ACPV アーキテクツ アントニオ・チッテリオ パトリシア・ヴィール(ACPV ARCHITECTS Antonio Citterio Patricia Viel)」が手掛ける。ブルガリらしいコンテンポラリーなダイニングは屋内62席・屋外34席。リラックスな雰囲気を醸しながらも全てが豪華だ。ローマの夕日を思わせるサフランオレンジの壁、神社風の木天井アーチから「Barovier & Toso」の手吹きムラーノガラスの照明が下がっている。レセプションエリアにもあったアーチ型の開口枠が奥に見える。

イル・リストランテ ニコ・ロミート Il Ristorante Niko Romito ブルガリホテル東京

家具や照明は全てイタリアブランドから輸入した。「Maxalto」ブラウンのチェアやアイボリーのソファなど、イタリアンゴージャスでスタイリッシュな世界だ。個室には巨匠ジオ・ポンティ(Gio Ponti)の作品を「Molteni」がアレンジしたと言うテーブルもある。
エリザベス・テイラーやソフィア・ローレンなど、ブルガリ顧客のモノクロ写真はここにも飾っている。ラウンジ同様に皇居外苑に面する屋外テラスはこれからの時期は心地良いだろう。高層階から見下ろす東京の夜景も美しい。案内されたのはカップルシート、ダイニング中央に向かって2人で並んで座る。

イル・リストランテ ニコ・ロミート Il Ristorante Niko Romito ブルガリホテル東京

シェフを務めるのはミラノ出身マウロ・アロイシオ(Mauro Aloisio)だ。スイス「バドラッツ パレス ホテル」「フォーシーズンズ ホテル」、ミラノでは「ブルガリ ホテル」「アルマーニ ノブ」「パーク ハイアット」、「ブルガリ ホテル ドバイ」を経て、「ブルガリ ホテル 上海」から着任した。わずか8ヶ月で「ミシュランガイド東京2024」1つ星を獲得している。
こちらは充実したワインリストも楽しみだ。まずはグラスシャンパン「カステルノー ブリュット ミレジメ 2006(Castelnau millesime)2006」を頂きながら、リストに目を通す。ピノ・ノワール30%、シャルドネ20%、ムニエ50%。5年以上の熟成期間。クリーミーな泡立ちとゴールドが映える。軽やかさの中に微かな心地よい複雑さもある。

イル・リストランテ ニコ・ロミート Il Ristorante Niko Romito ブルガリホテル東京

コース「MENU DEGUSTAZIONE」がスタートする。まずはシェフからのご挨拶というスペシャリテのスープ「ヴェジタブル・アブソリュート」が運ばれてくる。水を一滴も使わず作ったクリアな琥珀色スープは、玉ねぎ・人参・セロリの濃厚な旨味が香り立ち、苦味が優しく余韻を引き立てる。シンプルで奥深いニコ・ロミートの世界感だ。金を淵に施した「Vecchio Ginori ベッキオジノリ ホワイト」。そうそう、こちらは全て美しい「ジノリ1735(旧Richard Ginori)」のプレートで運ばれて来る。
イタリアらしい香ばしさのパンやグリッシーニに続いて、「Vitello, mandorla e misticanza alcolica 仔牛 アーモンド ミックスリーフ バルサミコビネガー」が登場する。アーモンドソースを絡めたピエモンテ産子牛のローストは、柔らかい肉質が何ともクリーミーだ。ジノリの「Antico Doccia アンティコホワイト」にこれまた金が施されて豪華。重厚な白プレートに赤と緑が美しく浮かび上がる。

イル・リストランテ ニコ・ロミート Il Ristorante Niko Romito ブルガリホテル東京

    白ワインもグラスで頂こう。後記功シェフ・ソムリエに希望を伝えると、サッと出してくれたのは「プイイ・フュイッセ プルミエ・クリュ スール・ラ・ロシュ ヴィエイユ・ヴィーニュ 2021 メゾン・リケール(Pouilly Fuisse 1er Cru Sur La Roche Vieilles Vignes  Maison Rijckaert)」。高騰し続けるブルゴーニュワイン。
    コート・ド・ボーヌからさらに南下したマコネ地区は特級畑はないものの、良質なワインを産出するところだ。そこの一級畑のヴィエイユ・ヴィーニュ から作られた白。エレガントな酸に程よくオークの効いたまとまりのある飲み口だ。

    後記功シェフ・ソムリエ ブルガリホテル東京

    ちなみに、ホテル全体のワイン任されている後記功シェフ・ソムリエは、有楽町の老舗フレンチ「アピシウス」出身。当然フランスワインにも詳しい。ブルガリオープン時やワイン仕入れについて語らううちに、彼が若かりし頃にフィレンツェ3ツ星レストラン「エノテカ・ピンキオーリ(Enoteca Pinchiorri)」に突撃した逸話を聞く。
    私は以前そのフィレンツェ「エノテカ・ピンキオーリ」にて、オーナーのジョルジョ・ピンキオーリ(Giorgio Pinchiorri)の厚意でワインセラーに案内された事があったので、その話で盛り上がる。歴史深い地下セラーには戦前の驚くべきワインがあった事や、妻にメッセージを書いたボトルもプレゼントしてくれた事など、懐かしく思い出した。

    イル・リストランテ ニコ・ロミート Il Ristorante Niko Romito ブルガリホテル東京

    そこに運ばれて来たのは「Cavolfiore arrosto e nocciola カリフラワーのロースト」。スチームしたカリフラワーが主役の温前菜だ。カリフラワーは時間をかけて丁寧にローストし、下にもカリフラワーのマッシュを敷いた。ソースも濃厚で思うより食べ応えある。微かに残った食感に繊維が解けていく。余韻長く完成度の高い一口サイズの前菜である。
    ここで赤ワインも後記ソムリエと相談して、ピエモンテ州・バルバレスコの老舗「ロアーニャ バルバレスコ ガッリーナ  2016(Barbaresco Gallina Roagna)」をボトルで開ける事にする。「ロアーニャ」は5世代150年以上、無農薬でバルバレスコを造り続けている。オーク樽で約5年熟成し年間生産本数は極めて少ない。クラシックな作り手であるが、滋味深く飲みごたえのあるバルバレスコだ。ほどけつつあり柔らかく繊細な味わい。綺麗な酸とミネラルがあり、濃密な果実味とともに余韻に綺麗に広がっていく。

    イル・リストランテ ニコ・ロミート Il Ristorante Niko Romito ブルガリホテル東京

    次に登場したのは「Ravioli di patate con salsa di polpo alla Luciana ポテトのラビオリと佐島産タコのソース ルチアーナスタイル」。深みと旨味のあるタコのソースをたっぷりと絡めながら頂くラビオリ。南イタリア・ナポリの郷土料理タコのルチアーナ風だ。なかにはポテトとマスカルポーネチーズも潜んでいる。懐かしさの中に現代らしいスッキリさがあって食べやすい。
    続いてやってきたのは「Fettuccelle, salsa all’anatra, tartufo nero e Parmigiano Reggiano 鹿児島県産鴨のソース フェットゥチェッレ パルメザンチーズと黒トリュフ」だ。自家製のロングパスタに鴨肉から取った出汁の濃厚なソースが絡み合う。イタリア産黒トリュフも上から山の様に削られ、テーブルに香りが立ち上がる。ワインが進みそうだ。

    イル・リストランテ ニコ・ロミート Il Ristorante Niko Romito ブルガリホテル東京

    そこへ笑顔のマウロ・アロイシオ(Mauro Aloisio)シェフがテーブルに来られる。妻が「Buono! 」と頬に指をあてて楽しく会話する(お陰で写真を撮るのを忘れた)。そして次は魚料理「Razza arrostita, salsa al limone e timo 北海道産エイのロースト レモンソースとタイム」が艶やかに登場する。ジノリ「Oro di Doccia オーロディドッチァ」に白魚は美しく映える。ジャストな火入れのエイヒレのローストは、煮詰めたレモンバターと白ワインが旨味たっぷりの濃厚ソースだ。クラシックなフレンチのようでいて酸味の切れもあり、これまた完成度が高い。

    イル・リストランテ ニコ・ロミート Il Ristorante Niko Romito ブルガリホテル東京

    さてメインの肉料理は「Tagliata di filetto di manzo wagyu al rosmarino 和牛フィレ肉のタリアータ ローズマリー風味」。宮崎黒毛和牛のタリアータは赤ワインのソースで頂く。一見シンプルだが、下にはマッシュポテトが潜んでいる。食後にローズまわりの風味が残る。美味しくてサクサクいけるが、さすがにお腹いっぱいになって来た。
    ドルチェは目にも鮮やか「Cremoso alle mandorle e fragola 苺とアーモンド」。目の前で赤い苺のソースをたっぷり注いで完成する。爽やかで香り甘く濃厚にとろける美味しさ。苺の良さを最大に生かしたさすがな一品。

    イル・リストランテ ニコ・ロミート Il Ristorante Niko Romito ブルガリホテル東京

    最後はイタリアの伝統揚げ菓子「Bomboloni ボンボローニ」。一口大のドーナツ中には甘いカスタードクリームが入っている
。一緒に出されたレモン水が良く合う・・・と思っていたら、そこにさっと後記ソムリエが出してくれたのはイタリア伝統のレモンリキュール「リモネッロ ベナロンガ トレモンティス(Limonello Benalonga Tremontis)」!
    サルデーニャ・パウリラーティノで収穫されたレモン皮から造られるリモンチェッロ(アルコール度数28%)。混濁したペールイエローは最強のレモン水だ(笑) 爽やかで濃厚なレモンの香りがイタリアの太陽を思わせる。辛さと甘さが絶妙、美味しくてクイクイと飲んでしまう、すっかり酔ってしまいそうだ。

    イル・リストランテ ニコ・ロミート Il Ristorante Niko Romito ブルガリホテル東京

    ブルガリらしい豪華な空間に、適確で余裕のあるサービス。伝統を踏まえながらもコンテンポラリーで食べやすいイタリアン。一つ一つの料理は派手さはないが、上質の素材にしっかりしたイタリアらしい味付けながらも軽やかでエレガントさもある。コースを食べ終わる頃には十分に満たされてくる。洗練された優雅な空間で、大人が落ち着いて美食を堪能できる貴重なレストランと言えるだろう。また次の季節に訪問したいねと話しながら、後記ソムリエやスタッフに見送られ店を後にした。

    BULGARI HOTEL TOKYO
    2-2-1 Yaesu, Chuo-ku Tokyo
    104-0028 Japan
    Tel +81 3 6262 3333