760余年の伝統を誇る「博多祇園山笠」。博多の総鎮守・櫛田神社にまつられる素戔嗚尊に対して奉納される神事(国の重要無形民俗文化財)。毎年7月1日に開幕し計14の絢爛豪華な「飾り山」が各所に公開される。7月前半に福岡中心部に行くとお祭りの雰囲気が満載だ。
「飾り山」とは舁くための背の低い「舁き山」に対し、据えて見物するための背の高い山の事だ。今年の話題は八番山笠・上川端通の「機動戦士ガンダム」、十一番山笠・博多駅商店連合会の「ワンピース」だろうか。

博多祇園山笠 川端通り商店街

そして中洲、「博多座」「福岡アジア美術館」「ホテルオークラ福岡」「博多リバレインモール by TAKASHIMAYA」「リバレイン通り商店街」からなる複合商業施設「博多リバレイン」は今年で開業25周年となるメモリアルイヤーだそう。こちらにある十六番山笠は、表が出雲八岐大蛇伝説の「日本振袖始」、見送りは黒田節で有名な「呑取日本号」だ。ちなみにこの天下三名槍の1つ「日本号」の本物は、現在福岡市博物館で常設展示されている。
という訳でこの夜向かったのは、博多リバレインモール内にある「レストランひらまつ 博多・中洲川端(Restaurant Hiramatsu Hakata)」。そう言えば「ひらまつ」ホテル6件は、今月からロードスターキャピタルがオーナーになった。運営はそのまま「ひらまつ」が続ける。

レストランひらまつ 博多 松熊祐一郎支配人

アンティーク調で重厚感のある空間に、バカラ特注シャンデリアが煌めく。所狭しと絵画も飾られている。同建物内で移転したがここ「ひらまつ 博多」も25周年と言う事だ。「ミシュランガイド福岡 2019」で1つ星を獲得しているが、その当時の土生将之シェフは独立し、福津に「プラテネ(platenne)」を開業した。その後「ひらまつ博多」は大阪「ラ・フェット ひらまつ」と兼ねて中谷一則料理長が指揮していたが、去年からは内木場寿知料理長が就任している。
内木場シェフはひらまつに入社後、銀座「アイコニック」、広尾「ひらまつ」副料理長、西麻布「ひらまつレゼルブ」料理長を経て、「ひらまつ博多」料理長に着任した。鹿児島出身、久しぶりに九州に戻ってきたと言う事で意欲満々だ。

内木場寿知 料理長 レストランひらまつ 博多

まずは乾杯のシャンパーニュ、ワインリストの中から選んでいこう。物価高・円安など複合的要因から、どこのレストランもワインリストが大変な事になっている。その中でも「ひらまつ」のワインリストは、相変わらずの品揃えと値段を維持していて努力を感じる。
松熊祐一郎支配人と相談して決めたのは「ポル・ロジェ キュヴェ・サー・ウィンストン・チャーチル 2013(Pol Roger Cuvee Sir Winston Churchill)」。1984年に英国・チェーチル元首相への哀悼の意を込めてリリースされたプレステージシャンパンだ。

レストランひらまつ 博多 松熊祐一郎支配人

グラスに注がれると、クリーンな黄金色が煌めく。溶け込みつつある細やかな泡の立ち上る様も美しい。レモン・グレープフルーツの皮のような柑橘系のチャーミングな香り。そしてシャルドネ由来の白い花に、軽やかなイーストとスパイスの香り。熟成によるキノコのニュアンスも少し感じられる。かすかなアーモンドと蜜のニュアンスもあり、豊かな酸とともに上品な飲み口にさらに彩りを添えてくれる。
凝縮感や骨格、中盤の広がりはさほどなく、印象としてはやや緩い。余韻にはドサージュの甘さが残る。レストランで1本開けるには、深みや複雑さにかけるものの、そんな軽やかさはかえってアフタヌーン・シャンパンだったり、お酒に強くない女性向けパーティーには良いだろう。

レストランひらまつ 博多・中洲川端 Restaurant Hiramatsu Hakata

この日お願いしたのは内木場シェフのお任せ特別メニュー、「今夜は良い食材が目白押しです」と言う事で楽しみだ。2種のフィンガーフードの後、まずは一口前菜「新玉葱のブランマンジェ キャビアを添えて」が運ばれる。初夏の風情漂う爽やかな色合いだ。真ん中にはドーンとたっぷりなキャヴィアで見た目と塩気を補う。「サー・ウィンストン・チャーチル」と共に軽やかに味わう。
次に運ばれたのは「伊勢海老のポシェ 博多かぶのコンフィー ジュドシャンパーニュ」。これまた豪快な盛り付け、香ばしい甲殻類の香りが食欲をそそる。

レストランひらまつ 博多・中洲川端 Restaurant Hiramatsu Hakata

そして「佐賀県産ホワイトアスパラガスのエチュベ 柑橘香るオランデーズソース モリーユ茸と熊本デコポンを添えて」がやってきた。「ひらまつ」では昔からドンとアスパラガスが丸ごと提供されることも多い。こちらも極太の佐賀のホワイトアスパラガスが主役である。酸味香るたっぷりのオランデーズソースが絶妙にホワイトアスパラガスの甘みと繊維に絡む。まさにフレンチらしい王道の味わいだ。

レストランひらまつ 博多・中洲川端 Restaurant Hiramatsu Hakata

続いて「のどぐろの炭火焼き クレーム・ド・サフラン」は、和皿に黄色のソース、いかにもしっとりと火の入ったイサキの身、そして黒のチュイルと見た目にも美味しい。仄かな炭火の風味とサフランの香りを感じながら、季節のイサキを楽しめた。
続く「糸島産車海老と鹿児島県産プティポワフランセーズ 甲殻のエキューム」は野菜・豆類と車海老を風味豊かに味わう一品。車海老の香ばしさがいい。ここで赤ワインもワインリストからチョイスしていこう。

レストランひらまつ 博多・中洲川端 Restaurant Hiramatsu Hakata

目についたのは「シャトー・ラトゥール 2013(Chateau Latour)」だ。思えば前回の記事で「ラトゥール 2009」を紹介しているので詳しくはそちらを。ラトゥールは、「2011」を発売した2012年を最後にプリムールから離脱して衝撃を与えた。この夜開けた「2013」は、2020年発売の「2012」に続くグランヴァンと言う事になる。
ラトゥールらしい土っぽさ・杉・黒コショウ・甘草・涼やかなスパイス。凝縮感はさほどでもないが、程よい中盤から長い余韻へと連なっていく。体躯の引き締まった味わいはエレガントな酸とともに飲みやすい。爆発的な果実感や凝縮感はないものの、一般的に難しいと言われる2013年ヴィンテージについて、さすがラトゥールらしくそれなりにまとめあげてきている。

シャトー・ラトゥール 2013 Chateau Latour

運ばれて来たメインの肉は「ブルターニュ産仔羊のロースト ソースペリグー グリーンアスパラガスのクロッカン」。仔羊の身質を活かした適確な火入れだ。ブルターニュ仔羊のミルキーで繊細な身質が引き立つ。ソース・ペリグーと「ラトゥール」が口の中で調和していく。そんな至福の一皿であった。
最後のデザートは「福岡県産さちのかとルバーブのタルト仕立て カモミールのアイスクリーム」。甘くボリューミーに締めくくられた。

レストランひらまつ 博多・中洲川端 Restaurant Hiramatsu Hakata

内木場シェフの良質の食材を主人公においたバランス良く安定感のある料理の数々。「ひらまつ」ならではの美酒・サービスともに落ち着いた時間を今宵も過ごす事ができた。スタッフ達に見送られ建物を出ると、外国人観光客で賑わう中洲川端。屋台にも行列が出来ている。
そうだ今度の日曜日は星が煌めく七夕だ、天気はどうなのだろうか。お気に入りのワインを開けて妻とゆっくりテラスで星を見上げたいものだ。

レストランひらまつ 博多・中洲川端 Restaurant Hiramatsu Hakata

Hakata Gion Yamakasa is a Japanese festival celebrated from the 1st until the 15th of July in Hakata, Fukuoka

Restaurant Hiramatsu Hakata
Hakata Riverain 2F Shimo-Kawabatacho,
Hakata-ku, Fukuoka