盆を越えてもまだまだ暑いこの日、妻と向かったのは福岡市中心部にある「ザ・リッツ・カールトン福岡(The Ritz-Carlton Fukuoka)」。大名・明治通り沿いにひと際高くそびえるガラスタワーは、6月で開業1周年を迎えた。車を降り正面玄関、長い木造りのアプローチを抜けると、広いエントランスに赤い台座に豪華なフラワーアレンジメントが鎮座する。背後には「宗像大社」モチーフの水墨画ストリングアートも美しい。
向かったのは18階、フロアに長く続く窓からは広い空を遠くまで望めることができる。夕日が玄界灘を照らし夏らしい美しさだ。いつもは左側の、福岡伝統⼯芸がシックモダンな日本料理「幻珠(Genjyu)会席/鮨/鉄板焼き」エリアに向かうところだが、今日は右側のナチュラルなダイニングエリアに向かう。

一番奥にあるのが、モダンウェスタンレストラン 「ヴィリディス(Viridis)」だ。ラテン語で「Green(グリーン)」 を意味するこのレストラン、コンセプトは「Farm to Sky(農場から空へ)」。九州産の新鮮野菜をふんだんに使った多国籍料理が頂ける。17~19世紀の北欧の邸宅にあった温室(オランジュリー)がモチーフと言う内装は、木々の温かみに包まれた穏やかな空間だ。壁には小石原焼皿がオブジェとして飾られている。
先日「幻珠 会席」伺った際、「ザ・リッツ・カールトン福岡」早坂心吾総料理長から直にお誘い頂いたディナーイベントにやって来た。1夜限り、東京・赤坂のフレンチレストラン「アマラントス(Amarantos)」と「ペリエ・ジュエ(Perrier Jouet)」によるコラボレーションディナー「アマラントス x ペリエ ジュエ Collaboration Dinner」が開催されるのだ。

「アマラントス」宮崎慎太郎オーナーシェフは、以前ザ・リッツ・カールトン東京「アジュール・フォーティ・ファイブ(Azure45)」の料理長だった。当時早坂総料理長もザ・リッツ・カールトン東京「タワーズ(Towers)」料理長だった縁から、今回の貴重なイベントが実現したのだ。フレンチ好きにとって宮崎シェフの経歴は言うまでもないが、簡単に触れておこう。
パティシエからスタートし、菊地美升シェフの西麻布「ル・ブルギ二オン(Le Bourguignon)」、麹町「オーグー ドゥ ジュール(Au gout du jour)」などを経て渡仏。パリで「ローラン(Laurent)」「レゾンブル(Les ombres)」など様々な店で約2年間、さらなる経験を積む。帰国後2007年4月より、丸の内「オーグー ドゥ ジュール ヌーヴェル エール(Au gout du jour Nouvelle Ere )」料理長に就任し、7年連続でミシェラン東京の1つ星を獲得。

2014年5月「ザ・リッツ・カールトン東京」のフレンチダイニング「Azure45」料理長に39歳で就任した際には大きなニュースになった。早速「ミシュラン東京 2016」から6年連続1つ星を獲得。その後2021年秋に満を持して独立、赤坂に「アマラントス」を開業し現在に至るわけだ。カウンター12席のレストランで長年一緒に料理をしている宮島由香里シェフと腕を振るう。2022年からミシュラン1つ星を獲得している。
この日も宮崎シェフと宮島シェフ、鴨志田大史レストランマネージャーの3名が福岡入りした。私達は18時のオープンと同時に会場に案内される。笑顔の早坂総料理長に出迎えられ奥の窓際席に座る。長く広いカウンターキッチンには、既に宮崎シェフ、宮島シェフ、そしてホテルのスタッフがテキパキと準備を進めている様子が見え、気分も高まってくる。

今回のイベントは、1811年エペルネに創業した老舗シャンパニュ・メゾン「ペリエ・ジュエ」とのコラボレーションディナー。料理とペアリングして「ペリエ・ジュエ」の各シャンパンが頂けるのも楽しみだ。「ペリエ・ジュエ」は、実に200年以上の歴史を誇る。長い歴史の中で所有者が転々とした時期もあったが、現在は「ペルノ・リカール」となり、安定した経営が行われている。
シャルドネの聖地、コート・デ・ブランのアヴィーズやクラマンのシャルドネが特徴だ。我が家でよく開けるのはプレステージ・キュヴェ「ペリエ・ジュエ ベル・エポック(Perrier Jouet Cuve Belle Epoque Blanc)」や「ペリエ・ジュエ ベル・エポック ロゼ (Perrier Jouet Belle Epoque Rose)」。印象としても「上質」「エレガント」というイメージがすぐに口をつく。ボトルに描かれた「エミール・ガレ(Charles Martin Emile Galle)作の白いアネモネ」は、1902年に3代目アンリ・ガリスが依頼したもので1964年に発見された。

今宵のテーブルにはそのアネモネが描かれた各種グラスが壮麗に並べられ、グラスに注がれるシャンパーニュを待っている。そこへブランドアンバサダーのクリストファー・シュビヤー(Christopher Chevillard)氏が登場挨拶し、乾杯の音頭を取る。さすが日本に住んで13年と言う事で流暢すぎる日本語だ(笑)
乾杯のグラスに注がれたのは「ペリエ・ジュエ グラン・ブリュット ノン・ヴィンテージ(Perrier Jouet Grand Brut NV)」。シャルドネは20%と控えめにして、ピノ・ノワール40%、ピノ・ムニエ40%。カリン・蜜の甘み・仄かなスパイス・・アタックのミネラル感の中を泡が心地よく刺激してくる。

酸味高くエレガントさもあり、しっかりと落ち着きのある飲み口。乾杯のシャンパンとして人々が求めるものを、秩序立てて仕上げたという感じであろう。スタンダード・キュヴェであるが評判が高いことも頷ける味わいだ。
そこにまず提供されるCanapésは「グランドペチカ/粒コショウ/宮崎キャビア」。ジャガイモのグランドペチカを薄切りにして揚げた上に、パプリカとチョリソを乗せた。チョリソの風味が長く残る。左手前のポレンタの上には卵黄を乗せ、さらに粒胡椒を頂上に置いた。これまた風味豊かだ。更にクレープ生地の中にサワークリームを詰めて、上にはたっぷりのキャビアを載せた。

エレガントで整った「グラン・ブリュット」と共に存在感のあるカナッペを楽しむ。続くAmuseは「エダマメ/パルミジャーノ/生ハム」。パルミジャーノをクレームブリュレにして、枝豆のピュレと枝豆を一粒のせて。クレームブリュレ風は、パティシエからスタートをきった宮崎シェフらしい一皿だ。枝豆の風味と食感を感じるうちに生ハムの深い風味が余韻に長く残る。
合わせて提供されるパンは「アマラントス」で定番の「シフォン・サレ」「マドレーヌ・サレ」。甘くないパンと言う事で、名前の通り塩の風味が効いた柔らかくフワフワの食感がクセになりそうだ。

続いて提供されるシャンパンは「ペリエ・ジュエ ブラン・ド・ブラン(Perrier Jouet Blanc de Blancs)」だ。グレープフルーツ、白い花。微細な泡がキレのいい酸味とミネラルの間に立ち上るよう。フレッシュで若々しいブラン・ド・ブラン。
そこへ合わせられた料理 1er「ムラキウニ/グリーンアスパラ/コブミカン」はグラスの中に美しい層をなす一品だ。アスパラのムースの上にフヌイユのジュレを敷いた。さらにムラサキウニや小さくカットしたグリーンアスパラガスなどが乗せられ、上にはガレット生地で蓋をした。上からゆっくりとスプーンを入れて各素材を探し楽しむうちに、混然一体となってくる。

食感のコントラスト、引き締める苦味、そして香草の香りが立体的に重なり合う。繊細ながら十分な旨味があって、単調でない。ブラン・ド・ブランのミネラルと苦味と調和する一品であった。
続いてグラスに注がれるのは「ペリエ・ジュエ ブラゾン・ロゼ(Perrier Jouet Blason ROSE NV)」、深みのあるサーモンピンクに妻も嬉しそうだ。ブラッドオレンジ・ベリー・・落ち着いたハーブとスパイスの香りが滲む。ピノ・ノワール50%、シャルドネ25%、ピノ・ムニエ25%。

こちら 2em「牛ほほ/ターバンカボチャ/フィンガーライム」に合わせられる。70度で30時間コンフィした牛ほほ肉はかみしめる食感を残した。さらにベニエ生地で包んでフリットにしているのが巧妙なポイントで、この1皿の印象を決定的にしている。
下にはカボチャのソースとキャラメル。色合いだけでなく、香り・味わいに複雑さを出してくれる。さらに上に乗せたフィンガーライムの酸味がシャンパンと繋いでくれる。フリットにしたベニエ生地がとても良いアクセントで最後まで飽きずに食べ進めさせてくれる。口当たり良く、ソースの変化もあり、これまた落ち着いた大人の着地点の味わいであった。

さぁここでお待ちかね、アネモネが華やかなボトルが登場。当たり年の「ペリエ・ジュエ ベル・エポック 2015(Perrier Jouet Cuve Belle Epoque Blanc)」が注がれる。シャルドネ50%、ピノ・ノワール45%、ピノ・ムニエ5%。クリーミーな泡が立ち上る。うっすらとした蜜、白桃、トースト香など控えめながら上品な香りが漂う。骨格を形作る柔らかなミネラル感。そして余韻に心地よい旨みが残る。当然ながらまだ硬さもあるが、いつもながらの洗練された味わいである。
これに合わせられた料理は、熱々の 3em「アマダイ/大分サフラン/マルムギ」。アマダイはポワレにして横には泡立てた貝類のソースを大きく飾った。

アマダイの下には、マルムギとリゾット米のリゾットを敷いた。アマダイの皮目はしっとりした火入れ。身はつやつやに輝く綺麗な仕上がり。丸い食感の残ったリゾットもなんとも言えないアクセントだ。全体的に艶かしい味わいで満足する。
そして次こそが本命「ペリエ・ジュエ ベル・エポック 2004(Perrier Jouet Cuve Belle Epoque Blanc)」の登場だ。「ペリエ・ジュエ」がイベント用に特別に保管しているアンバサダー在庫から「2004年」が提供される。クリストファー・シュビヤー氏曰く「先程の2015年との違いを是非楽しんで下さい」との事。比較して飲めるのも、今回のようなイベントの醍醐味だろう。ゴールドの中に泡はすっかり溶け込んでいる。黄桃・甘露な甘い香り。ペリエ・ジュエリらしい上質なミネラルが、月日と共に解けて酒質に溶け込んでいる。

アタックからしなやかな深い旨みを伴った甘みが、中盤にかけて優しく広がる。微細な泡も飲んだ後に追いかけるように、余韻を広げる。熟成してもメゾンの目指すところを失わない上質なエレガントさをまじまじと感じられる。
過去のメモを見返すと「ベル・エポック 2004」は何本か開けていて、中でも印象的だったのは2016年にザ・リッツ・カールトン京都「ラ・ロカンダ(La Locanda)」にて。「世界のベストレストラン50」2006年版で一位に輝いたイタリア「オステリア・フランチェスカーナ(Osteria Francescana)」マッシモ・ボットゥーラ(Massimo Bottura)シェフを招いたディナーイベントで、ワインリストから選んで注文したボトルだ。その時はまだまだフレッシュで若々しかった「2004年」であるが、歳月を刻んでステージを上がった味わいになっていた。

そんな中運ばれた料理は 4em「オマールブルー/唐津レモン/グリーンロメインレタス」。火入れしたオマールと半生のオマールをパイ包みで包み込んだ。食感・味わいのコントラストが素晴らしい。オマールの間にはレモンのコンフィも挟んだ。甲殻類のソースでオマールを楽しんでいると、酸味だけでなく香りとしても立ち上ってくる。ロメインレタスの苦味が最後に全体を引き締めてくれた。
満足感に満ち足りた中、ここからDessertだ。まずは白い円柱が美しい「あさくらの桃/メレンゲ/トンカ豆」。メレンゲを割ると中身がトロリと流れ出てくる。マスカルポーネのエスプーマが潜んでいる。何とも表現できない口当たりと美味しさに思わず妻と目が合う(笑) そこでグラスを変えて「ブラゾン・ロゼ」をまた提供してくれるのも嬉しい。

続いて「あさらくの桃/八女茶」、桃のソルベの上に、四国のオリーブオイルを垂らした。一緒に提供される八女茶は「べにふうき(紅富貴)」。八女紅茶と言われる貴重な品種だ。まさに紅茶でありながら茶の深さも感じる。そしてMignardises「マタイチの塩キャラメル」で締めくくられた。
ベリエ・ジュエの上質なシャンパーニュとともに「アマラントス」の完成された美食を満喫した一夜限りのディナー。「ザ・リッツ・カールトン 福岡」はもちろん、宮崎シェフ・宮島シェフの本気度が伝わる満足いくイベントであった。

挨拶に来られた宮崎シェフとお話しする際に、会場に来ていたホテル総支配人から「またこちらのイベントに来てください」と言われたとの事だから次も楽しみだ。最後にイベント招致に尽力した早坂総料理長にお礼を伝え、まだ宴たけなわのレストランを後にした。次はここ「ヴィリディス」で改めて、早坂総料理長の料理を頂きに伺いたいと思う。

The Ritz-Carlton Fukuoka
Fukuoka Daimyo Garden City 2-6-50,
Daimyo, Chuo Ward,
Fukuoka, Japan, 810-0041
tel : 092-401-8888

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