新しい横浜を満喫すべく滞在先に選んだのは「ザ・カハラ・ホテル&リゾート 横浜(THE KAHALA HOTEL&RESORT YOKOHAMA)」。そこから遠くない横浜美術館で開催されたのは、国内顧客向けイベント「ルイ・ヴィトン2024-25 年秋冬コレクション ショー(Louis Vuitton Women’s Fall-Winter 2024)」だ。とここまではお話した。
そんな日のディナーに選んだのは横浜・馬車道の「横浜北仲ノット」にあるレストラン。みなとみらい線「馬車道」駅直結した新しい商業・文化施設「北仲ブリック&ホワイト」に隣接する。早速ホテルから車で向かおう。途中には、桜木町駅前から運河パーク駅までをつなぐ日本初の都市型ロープウェイ「エアキャビン(YOKOHAMA AIR CABIN)」も見える。

横浜北仲ノット レストラン スマーク SMAAK by Jacob Jan Boerma

着いたのは大通りに面したひと際目立つ高層ビル。高さ約200m(地上58階)超高層タワーマンションだ。入り口の警備員さんに名前を告げるとリストの確認を受けてエレベーターに乗ることができる。その46階・展望フロアにいくつかのレストランが入っているのだ。
広々とした展望フロアからは、山下公園・横浜スタジアム・横浜赤レンガ倉庫・横浜ベイブリッジ・・とにかく「横浜みなとみらい」が一望できる。広がる青い海と空・・なんとも素晴らしい見晴らしに思わず声が出る。遠くには富士山や東京スカイツリーも。夕日に照らされて正に絶好のタイミングだ。気が付けば誰もいない貸し切り状態、長く続く大きな窓に沿って右奥に歩いていく。

横浜北仲ノット レストラン スマーク SMAAK by Jacob Jan Boerma

レストランエリアには「THE YOKOHAMA BAY」「Le Cafe」などがあり、我が家の目的はレストラン「スマーク(SMAAK by Jacob Jan Boerma)」。オランダのミシュラン3ツ星シェフ、ヤコブ・ヤン・ボエルマ(Jacob Jan Boerma)氏がプロデュースする、アジアで初めてのレストランだ。2022年12月にオープンして2年目を迎えている。
ヤコブ・ヤン・ボエルマ氏は2002年にファーッセンのデ・ホーヘ・フェルウェ国立公園の外にレストラン「デ・リースト(De Leest)」をオープン。6ヶ月後にミシュラン1ツ星を獲得して注目を集めた。更に2007年に2ツ星、2013年には3ツ星を獲得した。そして2019年4月に日本に初来日。コレド日本橋ANNEX 「レストラン サンパウ(RESTAURANT SANT PAU))」跡地にて開催された「クック ジャパン プロジェクト(COOK JAPAN PROJECT)」の限定レストランに招致された。

横浜北仲ノット レストラン スマーク SMAAK by Jacob Jan Boerma

そして2022年には母国に似た湾口都市・横浜でプロデュース店をオープンさせたと言う訳だ。「クック ジャパン プロジェクト(COOK JAPAN PROJECT)」と言えば、2019年4月から2020年1月まで世界からスターシェフ約30名を招き話題になった。
例えば5月にはスペイン3ツ星のダニ・ガルシア(Dani Garcia)シェフ、6月にはペルーから「世界ベストレストラン2016」4位のヴィルヒリオ・マルティネス(Virgilio Martinez)シェフ、7月にはシンガポール2ツ星のジュリアン・ロイヤー(Julien Royer)シェフなど。我が家は当時フランスで唯一2つの「ミシュラン3ツ星レストラン」を持つヤニック・アレノ(Yannick Alleno)シェフの回に伺った楽しい思い出もある。

横浜 レストラン スマーク SMAAK by Jacob Jan Boerma

この日伺ったレストラン「スマーク」は、片全面が大きなガラス窓でそれに沿い横長に延びている。目の前には横浜のシンボル「横浜ランドマークタワー」、そして虹色に光る大観覧車や「ヨコハマ グランド インターコンチネンタル ホテル」、豪華客船が停泊する横浜港など、横浜みなとみらいを一望できる。
店内は床やテーブル・チェアー全てが木製で、今流行りのカジュアルでナチュラルな温もりに包まれた空間だ。客層も旅行客や海外のゲストが多いようだ。窓際の二人席テーブルもかなり小さい。ディナーは「ロッテルダム」4品、「デンハーグ」5品、「アムステルダム」6品とオランドの都市名が付けられている。私達は「アムステルダム(Amsterdam)」を頂くことにした。

横浜 レストラン スマーク SMAAK by Jacob Jan Boerma

乾杯のグラスシャンパーニュは「ボヴェール A&S ダムフランス ブリュット グランクリュ(Boever A&S Grand Cru Les Dames de France)」。1946 年設立のレコルタン・マニピュラン「ピエール・ボヴェール(Pierre Boever)」から2005 年に独立した「ボヴェール(Boever A&S)」。本拠地はエペルネ北部トキシエール・ミュトリ村。
ピノ・ノワール80%、シャルドネ20%、ドサージュ10g。グラスに注がれると夕日にゴールドの泡が輝く。細かな泡とミネラリーなアタック、白い花・蜜。高い酸味と程よい厚みが調和している。2012年30%、2013年70%のアッサンブラージュに、瓶内二次発酵42か月という丁寧な造りが活きている味わいだ。

横浜 レストラン スマーク SMAAK by Jacob Jan Boerma

アミューズは3品が並べられる。まず「クリスタルブレッド、ブルサン、ラディッシュ、エシャロット」は、タケスミで色をつけたパリパリのブラッドの上に、ガーリックのクリームをたっぷりと乗せラディッシュのジュレを飾った。クリームがソースのように口の中で液体化していき美味。
続いて「ツナのタルトレット、塩レモン、ポン酢、ジンジャー」は、本マグロをライムと生姜でマリネした。花山椒の芽とスプラウトを飾った。サクッとした薄いタルトの食感に続き、香草とマリネしたマグロがなんとも言えず調和してくる。

横浜 レストラン スマーク SMAAK by Jacob Jan Boerma

最後は「バオブン、チキンオイスター、タンドーリ」。鳥の皮のチュイルをのせた中国風の蒸しパンだ。エスニックな香りが漂う味わい。ともに風味の余韻の長い存在感のあるアミューズ達だ。
加えて運ばれたパンは、フランスのM.O.F職人ジャン・フランソワ ルメルシエ氏プロデュースのベーカリー「ジャン・フランソワ(JEAN FRANCOIS)」のもの。こちらでオリジナルを作ってもらっているそうだ。

横浜 レストラン スマーク SMAAK by Jacob Jan Boerma

前菜の「甘エビ、アボガド、トマト、ディルヴィネグレット」。白のプレートに白と緑が映える。アボガドにココナッツのソースが敷かれ、潜んでいる甘エビの甘さを、ディルのムースやラディッシュの食感とともに味わう。これまた独特の世界観が面白くて、そして美味しい一品だ。
続くのは「ムツ、トマト、アーティチョーク、ケッパー、和牛、ズッキーニ」。ムツと和牛の共演だ。低温調理で火を入れた山形和牛の下に、皮目を焼いたムツが潜んでいる。トマトのピューレにドライトマト、そして様々な野菜の風味とともに一つの味わいに昇華している。ムツと和牛という面白い絶妙なバランス感覚が、なんとも言えない美味しさに繋がっている。

横浜 レストラン スマーク SMAAK by Jacob Jan Boerma

続いて「スズキ、フェタチーズ、マッシュルーム、オイスターリーフのオイル」、これも白が映える一皿だ。低温で熱を入れた愛媛産スズキは見るかにしっとりとした火入れ。フェタチーズとマッシュルームの2種類のソースにオイスターリーフのオイルを垂らした。オイスターリーフの香りがテーブルに漂う。潜んでいるシーアスパラガスの塩気と食感もアクセント。まさに海岸沿いにいるようにスズキを堪能する。
次の「ホタテ、カリフラワー、タイカレー」はエスニックで美味。マリネしてからパン粉焼きしたホタテが中央に陣取る。その周りにカリフラワーとタイカレー風味のソースが流されている。さらにウッディナッティが散らされハーブの香りを纏わせている。艶めかしい火入れのホタテを立体的に味わった。

横浜 レストラン スマーク SMAAK by Jacob Jan Boerma

ここでお願いした赤ワインはブルゴーニュ「ミシェル・グロ オート・コート・ド・ニュイ フォンテーヌ・サン・マルタン 2016(Michel Gros Hautes Cotes de Nuits Fontaine St Martin )」。「ミシェル・グロ(Michel GROS)」といえばモノポールの「クロ・デ・レア(Vosne-Romanee 1er Cru Clos des Reas)」が思い浮かぶが、我が家も好きなドメーヌの一つだ。従妹のアンヌ・グロ(Anne Gros)女史来日時に、妻の誕生日を祝ってくれた思い出もある。
この「フォンテーヌ・サン・マルタン」もミシェル・グロのモノポール(3.25ha)。フィロキセア禍によって壊滅した畑を親子2代40年以上かけて再興したという。2014年が初ヴィンテージになる(赤と白)。

横浜 レストラン スマーク SMAAK by Jacob Jan Boerma

グラスから立ち上がるラズベリー・チェリー・・軽やかなアタックからピノ・ノワールらしい味わいが控えめなオーク香とともに柔らかく広がる。フレッシュで飲みやすくキュートな味わい。
そこに運ばれて来たメインは「牛肉、バハラットスパイス、グリーンアスパラガス、十六ささげ」だ。牛肉のカイノミの赤みを残した火入れがカイノミの味わいを引き立てている。噛み締めがいのある肉質だ。ソースはフォン・ド・ヴォーに三杯酢も垂らして、深みもあるが軽やかである。中東のバハラットスパイスの香りが漂う。周りにはヒスイナスのロール、大葉のフリット、レンコンのコンフィも添えられて。

横浜 レストラン スマーク SMAAK by Jacob Jan Boerma

デザートは「青じそアイスクリーム、レモン、ラズベリー、焼酎のグラニテ」。豆腐のエスプーマに大葉のグラニテに焼酎の風味も効かせて。爽やかな甘さを楽しんだ。最後はカヌレやマカロンなどの小菓子、そして紅茶で締めくくった。
ヤコブ・ヤン・ボエルマ氏が様々なレストランでの経験もある北欧シェフということで、軽やかだったり、独特の味わいかなと予想していたが、良い意味で見事に裏切られる。それぞれの食材をきちんと主人公に置いて、旨味や酸味、そしてハーブの香りなどを生かしつつ、立体的でとても美味な世界観を作り出していた。スタッフも多くないが、テキパキと的確かつ穏やかで居心地が良い。美しい横浜の港の夜景と、たまたま遭遇した港から打ち上げられる花火を眼下に、満足のいくディナーとなった。

横浜北仲ノット レストラン スマーク SMAAK by Jacob Jan Boerma

SMAAK by Jacob Jan Boerma

46F Yokohama Kitanaka Knot,
5-57-2 Kitanaka-dori, Naka-ku,
Yokohama City, Kanagawa
tel: 045-323-9576