前回に続き、「フォーシーズンズホテル 東京 丸の内(Four Seasons Hotel Tokyo at Marunouchi)」の7階にあるフレンチレストラン「セザン(SÉZANNE)」の話をしよう。オープンわずか3年で「Asia’s Best Restaurant 2024」1位になった後、「ミシュランガイド東京」でも3つ星に上り詰めた。今一番予約が取り辛い最旬のレストランだ。
ダニエル・カルバート(Daniel Calvert)総料理長とアシュリー・ケイリー(Ashley Caley)副料理長が率いる、多国籍のスタッフ達が生き生きと働くダイニングは正に活気に満ちている。ジェネラルマネージャーの大塚信秀ヘッドソムリエは、銀座「ベージュ アラン・デュカス(Beige Alain Ducasse)」時代から存じ上げているので、こちらでも安心してワインも任せられる。

という訳で料理の続きを書いていこう。運ばれて来たのは「厚岸牡蠣 夕張キングメロン じゅんさい」。生の牡蠣にメロンを乗せてキャビアを振った、なんとも斬新な一皿だ。上にはたっぷりとじゅんさいと牡蠣のソースが掛けられている。
発想が面白いだけでなく、予想を超えてきた美味しさに脱帽する一皿だ。ワインがいらないな(笑) 味の着地点がやりすぎてなく、しかしながら見事に昇華されている。

さてここで大塚ソムリエにワインリストも所望し、じっくり眺めていく。ワインリストは最近見ないほど重厚でバリエーション豊かな品揃えである。レストランでワインに色々と目移りする楽しさは久しぶりだ。チョイスしたのはボルドー「ペサック・レオニャン「シャトー・ラ・ミッション・オーブリオン(Chateau La Mission Haut-Brion)2012年」。
ラ・ミッション修道会に由来する、かつては1級「シャトー・オー・ブリオン」の一部であった畑(21ha)。年間生産量約8万本。メルロー45%、カベルネ・フラン7%、カベルネ・ソーヴィニヨン48%、新樽100%。ペサック・レオニャンらしい黒胡椒、血の香り、赤い花のドライフラワー、赤身肉、ハーブ。

アタックはしなやかな甘さからスタートし、中盤にかけてグッと膨らみ、スパイシーさを伴った心地良い余韻はかなり長い。まだ少しゴツゴツしたタンニンがあるが、それがまた味わいに変化を与えてくれる。かなり当たりな1本だろう。「このキンキの一皿の、中華的ニュアンスにボルドーが良く合うと思います」と大塚ソムリエ。
そこに運ばれてきたのは「網走産キンキ コシヒカリ米 レモンバーベナ」。北海道網走のキンキをパリパリに仕上げた。シシトウを時間をかけて焦がしたソースに、レモンバームの香りを移したオイル。丸みある食感のコシヒカリがなんとも言えないアクセントだ。豚肉の角煮のような肉感のあるキンキが実に美味である。余韻に微かに香るハーブ感が清涼感を残す。大塚ソムリエのコメント通り「シャトー・ラ・ミッション・オーブリオン」がしっかりと寄り添ってくれた。

次に登場したのは、シルバートレイに乗せられた美しいホールの「エアルームトマトタルト ガーデンバジルとブラータチーズ」。大きなタルトに真っ赤なトマトがびっしりと詰まってキラキラ輝く、生バジルを纏ってまるでデザートのようだ。それをカットして取り分けてくる。テーブルで、ブラータチーズとオリーブオイルのソースを掛けて完成する。
摘み立てのようなバジルの香りがテーブルに漂う。セミドライトマト・ズッキーニ・とうもろこしを重ねた、夏に人気のスペシャルな一皿と言う事。トマトタルトは濃厚な甘酸っぱさでしっかりとした味わい。50度のオーブンで6時間もトマトに火を入れて、じっくりドライに近づけていく。その過程で表現される凝縮したトマトの、リッチでなめらかな口当たりと甘酸っぱさが、絶妙に面白くまた美味しかった。

そして次のプレートは「スコットランド産ラングスティーヌ ジロール茸 香川県産グリンピース」。ラングスティーヌをバターでソテーして、味噌のソースで仕上げた。いかにもフレンチらしい仕上げだ。
八角などスパイシーさをアクセントに、濃厚な甲殻類の風味が立ち上がるような奥深い一皿だった。最初に出て来た赤味噌を練り込んだ「麦芽大麦サワードゥ」とも通ずる。カルバートシェフは出汁や味噌、醤油や柚子など日本特有の食材を日々探して使っているとの事。

次はこれもまた印象的なプレゼンテーション。香ばしい焼き茄子の香りに包まれる「京都産賀茂茄子 千葉県産豆乳 ガーデンミント」がやって来た。立派な賀茂茄子の炭火焼きが、目の前で手際よく切り分けられて行く。香りと共に湯気も立ち上がり、熱々ホクホクが見て取れる。
予めテーブルには、豆乳の白にミントの美しいグリーンがデザインされたプレートが用意されている。その綺麗なソースに茄子の実を乗せて完成だ。ミントの爽やかさと豆乳のまろやかなソースが、ふんわりした茄子に絡まって味わいの調和を生み出している。

そろそろお腹もいっぱいになって来た頃に、メインの「愛知県産めぐみ鴨 カリフォルニアチェリー モデナ産チェリーバルサミコ酢」が登場する。シルバートレイに乗せられたそれは、まるで北京ダックの様な艶やかさと香ばしさだ。
愛知県豊橋の鴨を、まずはオーブンでじっくりと火を入れる。更にそれにハチミツやジンジャーを塗って炭火で焼き上げ、まさに北京ダックのように仕上げていると言う。クリスピーな皮がなんとも癖になる味わい。フォワグラのソースがリッチ感を、チェリーのバルサミコソースが軽やかさを演じてくれた。これも人気の一皿だ。常にさらなる完成度を求めるカルバートシェフらしく、色々と付け合わせは変わると言う。

続いて運ばれたのは「ビゴリパスタ アル トルキオ」。トルキオというイタリア伝統の圧搾機で作る極太ロングパスタだ。モチモチのビゴリを鮮やかなサルサベルデで頂く。お腹いっぱいなはずがぺろりと頂けた(笑)
一息ついてデセール、1品目は「愛知県産イチジク ココナッツ イチジクの葉」。イチジクを器にして、ココナッツのグラニテとイチジクのジャム、上には葉のパウダーが振られている。さっぱりと甘く冷たい食感が食後を引き締めてくれた。

メインのデセールはスペシャリテな「宮崎県産マンゴー ショートブレッド クレームシャンティ」。サービススタッフも夏と言えばやはりこれと言うデザートだ。ラム酒でマリネして風味豊かなマンゴー。その中にメレンゲ、ソルベが三層をなしている。上にはたっぷりのシャンティクリームが掛けられ、更にお替り用のクリームも添えられる。
そして最後はミニャルディーズ(小菓子)というにはしっかりした、桃やショコラのケーキが出され、ハーブティと共にコースが締めくくられた。

いつの間にか満席の店内は国際色豊かだ。ベストレストランの上位はまだまだ海外客の誘引になっているようだ。そういえば大阪「ラ・シーム」に伺った時は我々以外は全員海外のゲストだったが、今回もそんな感じだ。
多皿料理なので食べ疲れするかなと思いきや、少量がテンポよくバランスよく提供される。ワインと共に味わううちにいつの間にかちょうどよい塩梅になっている感じだった。一皿一皿も、時間が経って見返しても味を思い出してくる。そんな個性・素材の凝縮感・オリジナリティーが際立った料理達であった。これからの華やかなフェスティブシーズンにもぴったりのレストランだろう。
Four Seasons Hotel Tokyo at Marunouchi
1-11-1 Marunouchi, Chiyoda-ku, Tokyo,
Japan 1006277
SÉZANNE
Classically rooted, regionally inspired French cuisine
ちなみに近くにあるもう一つの「フォーシーズンズホテル東京大手町」
Four Seasons Hotel Tokyo at Otemachi はこちら

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