カリフォルニアワイン ザンダー・ソーレン Xander Soren

年末に向けて慌ただしさと寒さがつのってくるこの夜、向かったのは「ザ・リッツ・カールトン福岡(The Ritz-Carlton Fukuoka)」。ホテルに隣接する「福岡大名ガーデンシティ」では今年もクリスマスゲートパークが催されている。ツリーや豪華なJRA馬車などクリスマスイルミネーションが煌びやか、沢山の人で賑わっている。渋滞する中を進み、ホテルの車寄せに着くと、とたんに訪れる静けさにホッとする。
アプローチを抜けたエントランスには赤い台座、年末らしい豪華なフラワーアレンジメントが鎮座する。そして18階ロビーフロアに。こちらのゴールドに輝くクリスマスツリーは4mもあり、白く発光する大きな蝶が舞い降りている。温かみある内装デザインに合うシックゴージャスと言ったとこか。

ザ・リッツ・カールトン福岡 The Ritz-Carlton Fukuoka

さてフロア奥の「幻珠 会席」に向かおう。この夜は、和食とカリフォルニアワイン「ザンダー・ソーレン(Xander Soren)」ペアリングディナーが行われるのだ。入口ではザンダー・ソーレン氏ご本人が「またお会い出来ましたね!」と満面の笑顔で出迎えてくれる。
彼は20年以上米国Apple社にて重役として勤務した経歴を持つ。スティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)氏と共に働き、iPodやiPhoneのデジタル音楽を制作した。ジョブス氏に勧められた日本の地は色々と巡り、京都「俵屋旅館」にも宿泊したという。我が家も「俵屋旅館」には長年お世話になり、ジョブス氏と同室をずっと使っていた事を後で知ったものだ。

カリフォルニアワイン ザンダー・ソーレン Xander Soren

ソーレン氏は日本全国を旅する中、特に京都で和食とピノ・ノワールが合うという得難い体験をした。その体験をベースにApple本社のあるカリフォルニアで、海に近い冷涼な畑を探し、かつ早めに収穫し、よりエレガントで和食を邪魔しないワイン作りを目指すことになる。
2012年から趣味でワイン造りを始め、2022年にAppleを退社して2023年から発売を開始した。ワインメーカーはシャリニ・シェイカー氏(Shalini Sekhar)。「スタッグス・リープ(Stag’s Leap Wine Cellars)」などの経歴を持ち、2015年のサンフランシスコ・インターナショナル・ワイン・コンペティション(San Francisco International Wine Competition ・SFIWC)では最優秀ワインメーカーにも選ばれている。

ザ・リッツ・カールトン福岡 総支配人ラドゥ・チェルニア Radu Cernia

サンタ・リタ・ヒルズ(Santa Rita Hills)、ソノマ・コースト(Sonoma Coast)など厳選した畑から各アイテム100ケース以下という少量生産。このこだわりぬいたピノ・ノワールは、日本ではミシュラン3つ星「鮨さかい」「鮨さいとう」などでも使われている。そんなソーレン氏を迎えてのペアリングディナー、まだ市場に出てない物もあると言うから楽しみだ。「ザ・リッツ・カールトン」公式シャンパーニュで乾杯しながらソーレン氏の話に耳を傾ける。
そうそう、そんな中ちゃっかり着席していた「ザ・リッツ・カールトン福岡」総支配人ラドゥ・チェルニア(Radu Cernia)氏、こちらに手を振っている(笑) ルーマニア出身の彼は「ザ・リッツ・カールトン ドバイ」を皮切りに、東京・北京・シンガポールなどを経て、2023年開業時に福岡に着任した。ちなみに共にオープニングメンバーであった早坂心吾総料理長は10月で退職されている。

「アマラントス」宮崎慎太郎シェフ 「幻珠」中島弘貴料理長

思えばこちらでの今年のワインディナーイベントでいうと、夏に「ホテル開業2周年 ドゥラモット & サロン」、そして秋に「和とフレンチの至高の融合」と称したミシュラン1つ星の東京・銀座「アマラントス(amarantos)」宮崎慎太郎シェフを招いた「幻珠」中島弘貴料理長とのコラボディナーも良かった。
これには大分・宇佐「安心院葡萄酒工房」から執行役員でありヴィンヤード・マネージャーである古屋浩二氏を招き、安心院ワインに合わせて「アマラントス」と「幻珠」からそれぞれ料理が提供されるという面白い企画だった。

「安心院葡萄酒工房」ヴィンヤード・マネージャー古屋浩二

簡単に触れておくと「安心院葡萄工房」から出された「安心院 スパークリングワインロゼ(Sparkling Rose )2021」に合わせた「八寸」は、アマラントスから「グジェール コンテクリーム/そば粉タルト/あおさサワークリームキャビア/フォアグラテリーヌ プラムジュレ/マリーゴールド」、幻珠からは「鯖寿司/苔天ぷら 雲丹/ワタリガニジュレ寄せ」が供せられた。
口の中でコンテクリームが弾け、余韻にグジェールの風味が心地よく残る。キャビアとサワクリームが混然となり、溶けていく。天ぷらにしたノリの上にはウニが乗せられ、これも弾けるように蕩けていく。それぞれの一品がしっかりとした骨格と味わいの大きさを待ったフレンチとのコラボらしい八寸に満足する。

「アマトランス」鴨志田大史マネージャー兼ソムリエ

「安心院葡萄工房」古屋浩二氏はとても気さくな方で、ワインに対する造詣の深さと愛情がひしひしと伝わってきた。安心院ワインを1本通して飲んだことはなかったが、一杯ずつペアリングを狙っていくとかなり面白く、興味深いワイン達であった。ちなみにスマートでエレガントなサービスは「アマトランス」鴨志田大史マネージャー兼ソムリエ。
「先付け」としては、アマラントスから「オマールフュメ コライユピュレ/枝豆ペースト/枝豆ヴィシソワーズ/ガレット ハーブ」、幻珠からは「かつおだしジュレ」が供せられる。これらには「安心院 プティ・マンサン(Petit Manseng) 2023」が合わせられた。2024年にボトリングして1年くらい経ったもの。さらに2・3年熟成させても面白いという。アールグレイ、果実のコンポート。香りは控えめでアタックも優しいが、ミネラルの骨格がある。茎の残り香を出汁に合わせた。

安心院葡萄酒工房 × ザ・リッツ・カールトン福岡

「焼き物」は、アマラントスから「アユブルーテ 黒ニンニクピュレ」、幻珠からは「鮎塩焼き 瓜のピクルス」。二人の息もぴったりでテンポよく様々な味わいを見事に昇華しきっていた。鮎の頭・肝・骨などのソースが存在感を見せる。中島料理長の焼いた鮎の塩焼きに、アマランタスのソースを合わせた力作だ。こういうイベントらしい一皿。
これらには「安心院 諸矢 甲州(Moroya Koshu)2024」が合わせられる。青い香りを、きゅうり・ウリのイメージで鮎に合わせた。ちなみに古屋氏が弓道をやっている事から来た「諸矢」というネーミングだそうだ。

「アマラントス」宮崎慎太郎シェフ 「幻珠」中島弘貴料理長

続く「極果 アルバリーニョ(Gokka Albarino)2023」には、アールグレイ・黄桃・ジャスミンなど独特の引き付けられる香りが広がる。アマラントスからは炊き合わせ「温かいトマト餡/セミドライトマトペースト」だ。練り梅の代わりにドライトマトのペーストを添えた。トマト餡を口に含んだ後にアルバリーニョを飲むと更に膨らんでいく。トマトの凝縮感にワインの凝縮感を合わせたという。鴨志田ソムリエの狙い通りのマリアージュであった。
幻珠からは「鱧」、鮑の肝ソースを合わせて洋風に仕上げた「五島うどん」。「強肴」「食事」は、アマラントス「壱岐牛 ペニエ」「赤ワインリゾット」、幻珠から「キノコの摺り流しと松茸」「鰻地焼き」など最後まで楽しむことができた。

「幻珠」中島弘貴料理長

おっと!ついつい長くなってしまった。さて、またカリフォルニアワイン 「ザンダー・ソーレン(Xander Soren)」コラボディナーの話に戻さなければ。

乾杯は国内の「ザ・リッツ・カールトン」公式シャンパーニュになった「フレールジャン・フレール ブリュット プルミエ・クリュ(Frerejean Freres Premier Cru Brut)」。「テタンジェ(TAITTINGER)」一族(長男の孫)のフレールジャン3人兄弟が2005年、アヴィズ村に立ち上げたレコルタン・マニピュランだ。このブリュットはシャルドネ50%、ピノ・ノワール50%。初めて口にしたが、なるほどシャルドネの爽やかさとピノ・ノワールの深みが品の良いバランスを取っている。ホテルで喉を潤すにはピッタリだろう。
そして各テーブルに登場したのは「ザンダー ロゼ・オブ・ピノ・ノワール(XANDER Rose of Pinot Noir)2024」。明るいポップなピンク色が注がれていく。昨年初めて実験的に作ったロゼという事でなんと「250本のみ」の生産だ。気軽に飲むロゼではなくペアリングを前提にしてるという。

カリフォルニアワイン ザンダー・ソーレン Xander Soren

「サンフランシスコマガジン(San Francisco magazine)」「ハリウッドレポーター(The Hollywood Reporter)」からもこの夏の「ベストロゼ」に選出され完売した。今回はソーレン氏がプライベートライブラリーから持参したものと言うからラッキーだ。フレンチオーク (20%新樽) にて17ヶ月。少し濃いめの色合い。微細な泡はすっかり溶け込んでる。高い酸味がアタックから広がり、チャーミングなレッドチェリー・野いちご・・余韻には仄かな甘味が心地良くミネラル感と残る。
これに合わせる前菜は「鯖寿司 海苔添えて/根芹と落花生の和え物/蜆との時雨煮/蓮根豆腐/豆乳蟹コロッケ」。豆乳蟹コロッケにはレモンを絞り、ロゼとの接点を探る。鯖鮨はロゼに合わせて優しく繊細でありながらポイントをついた締め具合が絶妙。周りに巻いた海苔の風味が余韻に立ち上る。根芹や落花生もワインとつないでくれる。

Xander Soren リッツカーツトン福岡「幻珠」

そして最初のピノ・ノワールは「ザンダー ピノ・ノワール ソノマ・コースト(XANDER Pinot Noir Sonoma Coast)2022 」。カリフォルニアでは最北に位置するソノマ・コースト。ザンダー・ソーレンの中で最もエレガント、12.6%とアルコール低めに仕上げている。フレンチオーク(20%新樽)で17月熟成。様々な鮨屋にフィードバックを求めると、「刺身や握りに合う」と良く言われるということだ。「デキャンター(Decanter)」でも96点という高得点を弾き出している。クラッシュしたラズベリーなどの香りが繊細に立ち上る。アタックはしなやかで何とも優しい。中盤は膨らむというより、綺麗にラストに向かって消え行くように一点に収斂して行く。その様が特徴的な繊細なシルエットのワインだろう。
それに合わせた向付は「ヤイト鰹/鰆松前付け/海苔佃煮」だ。自家製岩海苔を乗せた。松前付けの鰆は少し強くしてワインとの接点を探る。繊細で収斂する味わいが、確かに和食と合わせやすいワインだろう。さらに中皿「京鴨クレープ 香味野菜ナッツ/旨味噌」。北京ダックのイメージで仕上げた一品だ。旨味噌の深みと香味野菜の食感も楽しい。軽やかで繊細なピノ・ノワールに合わせて楽しめた。

XANDER Pinot Noir Santa Barbara County2020  ザンダー ピノ・ノワール サンタ・バーバラ・カウンティ

続くピノノワールは「ザンダー ピノ・ノワール サンタ・バーバラ・カウンティ(XANDER Pinot Noir Santa Barbara County )2020」。カリフォルニアヴィンヤードの南側、ロサンゼルスの上にあるサンタバーバラの畑だ。北のソノマコーストから南のサンタ・バーバラまでは広く、彼曰く「日本で言うと秋田から福岡までの距離をイメージしてもらうと、ご理解いただけると思います」との事。
フレンチオーク (35%新樽) にて17ヶ月。赤のラベルは紅葉をイメージした。先ほどのソノマ・コーストよりも新樽率をやや上げてスパイシーさが感じられる。少し閉じたスモーキーで茎を感じさせる青っぽい香りが複雑さを醸し出す。レッドチェリー、スパイス。軽やかなアタックから軽やかなスパイシー感が余韻にふくよかに広がって行く。
合わせるのは、焼き物「真名鰹味噌幽庵焼き/千枚蕪/九条葱」。天草のマナガツオを幽庵焼きにした。こちらも繊細な味付けにとどめてワインと調和させた。中島料理長はそれぞれのワインをテイスティングしながら「飲まないと分からない」と接点を工夫したという(笑)

Xander Soren リッツカーツトン福岡「幻珠」

続いて「ザンダー・ソーレン ピノ・ノワール サンフォード・ベネディクト(XANDER SOREN Pinot Noir Sanford & Benedict)2020 」ここから単一畑のワインの登場だ。1971年から始まった畑になる。海からの冷たい塩気も特徴という。ザンダー氏は、「シーフードや旨みを感じる料理、そして山椒との接点があります」ということだ。ザンダー氏は山椒が大のお気に入りでアメージングなスパイスと力説していた(笑)
赤系果実の香りに華やかさと複雑さが増してきた。アタックから中盤にかけて、とてもゆっくりと自然に円を描くように余韻が広がっていく。タンニンも酸も滑らかで酒質に溶け込んでいて、エレガントなワインだ。昨日から抜栓して今宵のディナーに準備してくれていた。これには揚げ物「河豚白子/日山椒醤油/卵黄」が供せられる。この料理はザンダー氏もかなりお勧めという。溶けていく白子の触感と混ざり合う山椒の風味、それがこのワインと良く合った

ザ・リッツ・カールトン福岡 菊地龍一ソムリエ XANDER SOREN Pinot Noir "LUDEON" Central Coas 2020

口直しの「鰻と根芹の胡麻和え」に続いて、最後を締める赤は「ザンダー・ソーレン ピノ・ノワール ルディオン セントラル・コースト(XANDER SOREN Pinot Noir “LUDEON” Central Coas)2020」。カリフォルニアの中央部分の6つの畑をブレンドした。フレンチオーク(20%新樽)で17月熟成。アルコール度13.5%。アタックから上質な質感があり、複雑さが出ている。ルディオンとは、両親のルルカとレオンを組みあせた思い入れ深く、ソーレン氏にとって「ナンバーワンのワイン」という事だった。
成熟したレッドチェリー・甘草・薔薇のドライフラワーなど、上質なピノ・ノワール独特のアロマが芳醇かつ上品流れる。高い酸とシルキーなタンニンが調和し、エレガントな余韻へとつながる。ちなみにサービスは笑顔の菊地龍一ソムリエ。

Xander Soren リッツカーツトン福岡「幻珠」

強肴は「九州産黒毛和牛/アワビ茸/茸擦り流し/海老芋/クレソン」。黒毛和牛も艶かしい火入れでワインと調和する。付け合わせの海老芋やキノコにも少し前半より塩を効かせてあり、アクセントだ。そして食事は「鯛味噌茶漬け/香の物」。赤ワインとのマリアージュということで椀物がなかったが、〆の鯛味噌茶漬けがスルスルと美味しく頂けて満足感を高めてくれた。
和食とワインというと、マリアージュを探るというより好きなシャンパンや白ワインと共に味わうことが多い。今回の「安心院ワイン」「ザンダー・ソーレン」はそれぞれのワインの特徴を踏まえて適度な接点を探るもの。それが行きすぎておらず、ワインも料理も美味しく頂くことができた。さぁいよいよクリスマスウィーク、年末年始のパーティー分も含めて色々チョイスしなければ・・しばしワインセラー室にこもってリストチェックといこうか。