春の夜風が心地よいこの日向かったのは六本木、4haの緑地を有する「東京ミッドタウン」。ミッドタウン・タワー47階から53階に位置する「ザ・リッツ・カールトン東京(The Ritz-Carlton Tokyo)」に車をつける。今月30日で19周年とあって落ち着いた年季を感じる。エレベーターを降りた45階がメインロビー、広がる大きな窓からの煌めく夜景を背景にジャズの生演奏はお馴染みといったところだ。
早速お目当てのレストラン、「Heritage by Kei Kobayashi(エリタージュ バイ ケイ コバヤシ)」に入ろう。フランスパリ1区「Restaurant KEI(レストラン ケイ)」のオーナーシェフ小林圭氏が監修するレストランだ。入って左側一面はガラス張り、奥まで東京の絶景が見渡せる様になっている。照明を落とした中にブルーをメインにしたインテリアや絵画が浮かぶ。デザインコンセプトはアンリ・マティス(Henri Matisse)の「切り紙絵」。個性的な芸術性とホテルらしいラグジュアリーさが融合している。

小林シェフは2003年に渡仏後、「ホテル・プラザ・アテネ(Hotel Plaza Athenee)」スーシェフなど、アラン・デュカス(Alain Ducasse)シェフの下で7年間修業した後、2011年に自らの名を冠するレストランをオープン。2012年に「ミシュランガイドフランス」で1つ星、2017年には2つ星、そして2020年から7年連続で3つ星を維持している。
こちらの「エリタージュ バイ ケイコバヤシ」はガストロノミー・キュイジーヌ・フランセーズをうたい2024年1月にオープンした。任されている村島輝樹シェフは、銀座「ル・マノワール・ダスティン」、台北「ラトリエ・ド・ジョエル・ロブション」、銀座「エスキス」などを経て料理長に就任した。同年10月には「ミシュランガイド東京」で2025・2026年と1つ星を獲得している。遺産・継承を意味する「Heritage」。フランス料理を進化させつつ次世代に引き継いでいきたいというという小林圭氏の想いから付けられた。

一番奥の静かな席に案内される。この夜お願いしたコースメニューは「Bijoux(ビジュー)」。まずはグラスシャンパンで喉を潤わせていこう。ワインリストを見ると、シャンパーニュ・白・赤のボトルはもとより、グラスワインも数種類づつ用意された流石のラインナップだ。その中からチョイスしたのは天使ラベル「ドゥーツ キュヴェ・アムール・ド・ドゥーツ ブリュット ミレジム 2013(Cuvee Amour de Deutz Brut Millesime)」。白葡萄はアヴィズ39%、オジェ24%、メニル・シュール・オジェ22%。
クリアボトルにキラキラとゴールドが揺れる。グラスに注ぐと美しく繊細な泡が立ち上るがすぐに溶け込んでいく。フレッシュでいて落ち着いた白い果実・蜜・・落ち着いた魅惑的な柑橘の香り。それに続く柔らかなイースト香もどこか上品。シャルドネのみからなる「ブラン・ド・ブラン」らしいエレガントさと果実の甘さを全体のミネラル感がバランス良くまとめている。

スプーンに乗せられた「洋梨のソルベ」でリフレッシュしながら「アムール・ド・ドゥーツ」で喉を潤していると、手袋をしたサービスが大きなボックスを運んできた。蓋を開けると、森に見立てて大きな「フランス産黒トリュフ」がゴロゴロ並んでいる。黒トリュフの妖艶な香りが一面に溢れ出て思わすテンションが上がる。フランスの様々な地域のもので、今からふんだんにコース中に使ってくれるというのだからとても楽しみだ。
気分も高まったところに3種類のアミューズが登場する。ゴツゴツとしたアートな竹墨と共に盛り付けられている。「マカロン」には黒トリュフを合わせたクリームチーズが挟まれて、ネットリとした存在感がたまらず美味しい。「チーズのシュー」の上にはコンテチーズが乗せられてシャンパンも進む。添えられたグラス器の「にんじんのムース」は、鶏のコンソメジュレと北海道産ウニが重ねられた。多彩な味わいに、最初からこんなに満足して良いのか不安になるくらいだ(笑)

そして早くも登場したのが、フランス店でもシグネチャーで知られるあの「最中」だ。「KEI」とロゴが型押しされた大きめな最中皮は、もちろんシェフが提携している和菓子屋「とらや」の特製。厚さ大きさなどは料理に合わせて調整するとの事。
サクサクっとした最中の中は、洋風のタルタルソースで和えたマグロ、バースニップなどを挟み込んでいる。下に米粒を敷いているのも湿気を押さえて食感を損なわないためだ。食感と旨みが絶妙な調和を見せていて、いくつでも食べられそうな感覚になる。中身は季節によって、また日々変化させているという。ちなみに添えられているのは「KEI」ロゴの帯の焼杉箸だ。

カンパーニュとミルクパンが塩・オイル・バターと共に運ばれる。そして次の料理は「キャヴィアとジャガイモのムース」だ。大きな丸い個性的な器の真ん中に、燻製メークイーンのムースが流し込まれている。上には小林シェフこだわりの大粒「クリスタル・キャヴィア(Kaviari)」がたっぷりと盛られている。底には半生のイカ、プチポワとなどが潜んでいて食感の変化も加えて最後まで美味しく頂けた。サイドに点々と落としたコーヒーオイルが、ムースの燻香をより引き立ててくるのもさすがだ。
ではこの辺りで白ワインを頂こう、「アルマン・ハイツ ムルソー ラバール(Armand Heitz Meursault La Barre )2022」。1857年から畑を所有してジョセフ・ドルーアンに葡萄を販売していた家系。アルマン・ハイツが2012年から醸造を開始して頭角を表した。わずか0.2haの石灰質マール土壌。ムルソーらしい落ち着きのある白い果実の香り。澱を攪拌しながら12か月樽熟成するが、とてもクリアでピュアな造りだ。程よい酸があり軽いタッチがモダンで料理に寄り添う。

次に登場したのは、カブをくり抜いた器に入れられた「コンソメスープ」だ。蕪の蓋を開けると表面には黒トリュフが浮かんでおり、濃厚なその香りがふんわり立ち上がる。鶏のコンソメはとても滋味深い味わい。スープの中にはエリンギ・エノキ・カブなどが潜んで食感のアクセントになっている。見た目は和食のようであるが、優しくも奥深いフレンチの味わいだ。
続いて、金箔華やかな漆塗り器に盛られた「黒トリュフとパルメザンチーズのリゾット」が運ばれて来た。これにも幅広の黒トリュフが乗せられ、妖艶な香りがテーブルの周りに漂い続ける。周りにたっぷり注がれた黒トリュフを使ったペリグーソースを絡めて頂く。弾力ある濃厚なリゾットに思わず頷く。前半から比べてグッと味わいが強くなってきた。

ここで当然赤ワインもお願いする、「ジャン・エ・ジャン=ルイ・トラぺ シャペル・シャンベルタン グラン・クリュ(Trapet Pere et Fils Chapelle-Chambertin Grand Cru ) 2011」だ。
1890年ジュヴレ・シャンベルタンに創業の歴史ある名門ドメーヌ(13ha)。1989年「ルイ・トラぺ」が分割相続され、長男が息子ジャン=ルイと共に立ち上げた「ジャン=ルイ・トラぺ」と長女の「ロシニョール・トラペ」になっている。赤い果実・薔薇のドライフラワー・・シルキーな軽いアタックから繊細なスパイシーを伴った確かな果実の旨みが余韻に残る。

続く魚料理は愛媛の「白甘鯛」だ。これにもたっぷり黒トリュフが乗せられている。テーブルで美しいグリーンのソースが流される。表面はパリパリでありながら、しっとりと火の入った白甘鯛の身に、ブールブランソースをたっぷりと絡めながら頂く。
ソースに加えられた貝のエキスのニュアンスの後に、ソースにたっぷりと削られたシソの爽やかな香りが鼻腔を抜けていく。蕾菜のしゃりしゃりの食感と苦味がまた良いアクセントになっていた。ちなみに先程の「蕪」もそうだが、この黒い皿はKEI御用達で知られる有田焼・やま平釜の「泡シリーズ」だ。

ここで手袋のサービスがまた重厚な箱を運んで来た。中にはメインとなる山形牛の大きなヒレ肉の塊が「塩窯焼き」の状態で、藁と香草の上に置かれている。今からこれを仕上げて切り分けていきますとの事。暫くしてサイドテーブルが用意され、目の前でデクパージュ(decoupage)してくれる。
そして専用のステーキナイフも箱入りで運ばれ、好きな物を選ぶという趣向。これは福井の越前打刃物「龍泉刃物」の特注もの。美しい装飾が施された人気の高級刃物だ(予約は数年待ちという)。大き目で結構な重さがある、もちろん切れ味抜群だ。

山形牛のヒレ肉は塩窯でじっくり火を通した後、ニンニク・香草と共にオーブンで仕上げる。切り分けられたヒレ肉は美しいロゼ色に仕上げられテーブルに映える。下にはたっぷりのトリュフソースが流されている。菜花や、赤ワインで煮詰めたエシャロットのコンディメントが添えられる。
別皿で運ばれた熱々の「グラタンドフィノア」は、ジャガイモのホクホクさとふんわり伸びるチーズが濃厚。黄金律の組み合わせに、トリュフも加わって食べ応え満載。様々な変化を楽しみながら最後まで美味しく頂けた。

これに合わせてもう1種類赤ワインを追加する。こちらはボルドー・サンテステフから「シャトー・コス・デストゥルネル(Chateau Cos D’estournel)2014」。メドック格付け2級で、1級に近いスーパーセカンドで言われ、好きなシャトーの一つだ。18世紀の地図にも見られる「砂利の斜面(caux)」と言う意味と、1811年から葡萄畑の拡張に尽力したルイ・ガスパール・デストゥルネル氏の名前から来た。彼が建てたインド・パゴタ風の大きな貯蔵庫はサン・テステフの名所にもなっている。
紫がかった濃い赤色、ブラックベリーやカシス、キメの細かいスパイス、そして葉巻のニュアンスも・・ハーブ香も流れてエレガントな余韻へと連なる。

さて、すっかりお腹もいっぱいではあるが、デザートを頂いていこう。1品目は「マスカルポーネのムース」、赤や緑の飾りが白いムースに美しく映える。そこに沖縄産バジルのソースを注いで完成する。ムースの下には、茨城と福岡のいちご2種類が隠れている。酸味のある苺はソース仕立てに、甘みのある苺は果肉を残した。米粉のクランブルや飴細工を崩し絡めながら食感の変化と共に味わう。さっぱりして春を感じる。
続いて2品目は「タルト・ショコラ」。テーブルでラム酒をひと吹きして完成。さっくりタルトに詰まったチョコレートのムースは濃厚かつ深みがあり、ラム酒の香りもとても効果的だ。最初から最後までびっしり、最高の食材をさすがのフレンチの技術で満喫できる素晴らしいコースだった。

締めの小菓子とハーブティーを頂いていると、わざわざテーブルまで村島シェフが挨拶に来られた。村島シェフに「Bijoux」コースのポイントを聞くと、「完成度の高い料理をテキパキと出す」という。サービスと連携して2時間で可能にするという事だった。
またその他「鳩料理」の話題にもなり、銀座「エスキス」時はフレッシュな鳩肉の提供を考えていたが、逆に小林シェフは鳩肉をハムのようにしたい発想であったので、ここ「ケイ コバヤシ」では10日程熟成させているとの事だった。村島シェフは小林シェフとコミュニケーションを続けて、常に様々な工夫をしてるという事だ。

小林シェフ曰く「アラン・デュカスから学んだのは、客を満足させる80%は食材で決まり、20%はサービス」と。なるほどこちら「エリタージュ バイ ケイ コバヤシ」のサービス陣、キッチンスタッフ、ソムリエ達、皆さん生き生きと笑顔と的確なサービスがとても印象的だった。料理だけでなく全てにおいて(ホテルの利点も含め)満足できたレストランであった。今まさに春のお祝いの季節、「東京ミッドタウン」は桜のライトアップをはじめますます賑わうだろう。

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